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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2011年11月29日 (火) | 編集 |
友人二人と一軒家を借りて、男三人の共同生活をしていた時期がある。

三部屋ある家の、一部屋ずつを自分の部屋にしていた。雑多で騒々しく、落ちつける環境ではなかったが、楽しいことも多かった。

ある日、同居人Aのところに、彼の友人が訪ねてきた。しばらく二人でなにか遊んでいるようだったが、あきたのか私のところへ来て

「おもしろいことありませんかね」

などと言う。

怪談でもしようか、と提案すると、いいですね、とお気楽な言葉が返ってきた。明かりを消した真っ暗な部屋の中で怪談大会が始まった。終わってみると時刻は午前二時。Aの友人は帰っていった。

私も疲れた。布団に潜りこんで、すぐにまどろみ始めた。

どれくらいたったのだろうか。目が覚めた。なぜ自分が起きたのか分からず、また目を閉じようとした時、外で足音がしていることに気がついた。

誰かが、うちの駐車スペースを、ぐるぐる歩きまわっている。駐車スペースといっても、安い貸家だから、砂利敷きで車一台がやっと入るくらいの広さしかない。

その砂利をジャッ、ジャッ、ジャッと踏む音がする。犬や猫はこんな大きな足音はたてないし、移動する歩幅から考えて人間だ。

しかし、この駐車スペースには車は置いてないけれど、自転車二台、バイク二台が並んでいる。とても歩き回れる状態ではないのに、足音はスムーズに移動している。

駐車スペースは、私の部屋の真横。私はサッシ窓そばに布団を敷いているから、何者かは私から一メートルか二メートルの位置にいることになる。

最近、近所でバイク泥棒が出没していると聞いていた。泥棒かもしれない。そうっと起きあがり、一気にカーテンを開いた。

誰もいない。いつの間にか、足音も消えている。

念のためサッシを開けて様子を確認する。バイクにも自転車にもイタズラされた跡はない。逃げていくような足音もない。やっぱり猫だったのだろうか。それとも、空耳かな。

釈然としないながら、サッシとカーテンを元通りに閉め、再び横になった。なんでもないと分かると眠気がもどってきた。

うつら、うつら……。

また足音が来た。

遠くから、ザッ……ザッ……ザッ……と近づいてくる。やがて、うちの駐車スペースまで来ると、先ほどのようにジャッジャッジャッと音をたてて、ぐるぐる回りはじめた。

これは、何だろう。

帰ってくれないかと願って、しばらく聞き耳をたてていたが、足音は延々歩きつづける。

ただ、それだけ。

その他には何も起こらない。

静かに身体を起こし、今度はカーテンの隅を少しだけめくって、隙間から外を覗く。やはり誰もいない。その瞬間、足音もしなくなっている。

これはおかしい。何だろう。いやな気分で考えているうち、いつしか寝てしまっていた。

寝るのが遅かったせいで、目覚めたのは昼過ぎ。

夜のことが思い出されたけれど、不思議な出来事というだけで、あまり怖くはなかった。寝ぼけていたのかもしれない。顔を洗ったり、食事の支度をしているうちに忘れてしまった。

やがて、同居人Aも起きてきた。彼は私の顔を見ると開口一番、

「昨日は参りましたよ」

と、げんなりした表情で言う。

Aは、怪談の後、煙草を一本だけ吸ったら寝るつもりだったらしい。部屋の明かりを消して、ごろんと布団に横になり、ぼんやり天井をながめながら煙を燻らせる。

「もう、寝ちゃうの……?」

唐突に耳元で声がした。

かぼそい、小さい女の子の声だった。この家の中に、そんな女の子はいない。

うっ、と息が詰まる。

声のした方向には、真っ暗な空間があるだけ。何も見えない。

全身の皮膚が粟粒立った。慌てて明かりをつけ、ふるえながら布団にもぐりこんで、ようやくのことで寝たのだという。

Aは、はっきりした霊感があるわけではないが、なんとなく気配を感じる時があるという。何度か、奇妙な体験をしているらしい。

「久しぶりに嫌な体験しましたよ」

そう言われて、私もゾーッとした。じゃあ、私のアレも……?

「ああ、それは呼んじゃったんですね。集まってたんですよ」

顔がこわばる私を見てAは、にやりと笑う。怪談でさんざん怖がらせたお返しのつもりなのだろうか。
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