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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2011年11月26日 (土) | 編集 |
Kの大学生のころの話。

Kは夏休みになると、軽井沢方面の民宿やペンションを泊まりこみで手伝うアルバイトをしていた。夏の繁忙期には人手が必要になる。大学生のアルバイトが重宝されるのだ。

自由時間はすくないが、どうせ派手に遊ぶような金はない。むしあつい夏を避暑地ですごしながら、それなりの金を手に出来る、この仕事を気に入っていた。

全国から大学生が集まるので、同じ立場の者同士、すぐに仲よくなった。仕事が明けるとみんなで集まって飲んで騒ぐ。それは楽しかったという。

ある日、肝だめしをやることになった。まず、怪談をして気分を盛り上げてから現場に出かけた。

近くに湖がある。湖に行くまでの道は、並んで歩くのがやっとなほど狭く、林の間を縫っていくような小径だった。夜は人気もなく、途中に明かりがない真っ暗な道は相当に怖い。女の子は怯えて男にしがみつく。その辺の計算も、肝だめしをする目論見の一つにあっただろう。

Kは行列の最後尾について、ぶらぶら歩いていった。しばらくいくと、なにやら前の方がざわつき出した。後ろにいるKには、前の状況が分からない。

何があったのかな。注意を向けると、辺りに声が響いていることに気がついた。

「あはははははははははは」

女の笑い声であった。

一体なんだろう。

背伸びして前方を見すかすと、すでにだいぶ湖が近い。木々の間から湖面に反射した月明かりが見える。

その水際を、真っ白いガウンのようなものを着た女が走っている。笑い声は、そいつが発しているらしい。

真夜中の人気のない湖。高笑いしながら、水際を走る女。異様な光景である。

Kはとっさに、

(近くに精神病院でもあって、脱走した患者なのだろうか)

と思った。そんな雰囲気の笑い方だったという。

ひときわ、前の方のざわめきが大きくなったかと思うと、悲鳴をあげて元来た方向へ走り始めた。誰も彼もが血相を変えている。状況がよく分からないKは、たちまち取り残されそうになった。

見ると、あの白い女が、Kたちの方へ向きを変えて迫ってくるではないか。

女は目を見開き、大きく口を開けて喉を振り絞って笑っていた。満面に浮かんだ狂った笑み……。

ゾッと、背筋に悪寒が走った。

「バカ、何やってんだ、走れッ」

仲のよくなった男に言われて、はっと我に返った。慌てて皆の後を追う。

「なんだ、あれはッ」

「見ろ、足を見ろッ」

そう言われて、走りながら振り返る。女のガウンの裾がはだけて、風にはためいている。そこから伸びているはずの足が見えない。

女は、空中を飛んでいる。

人間じゃない!

Kは無我夢中で逃げた。

と、暗闇で足元がはっきりしない中、何かにつまづいた女の子がばったりと倒れた。

「待ってッ、助けてッ」

女の子の悲鳴が聞えたが、誰も立ち止まらない。助ける余裕はなかった。女は、すぐ後ろに迫っていた……。

女の子のことは心配だったが、暗いうちは、とてもじゃないが戻る気がしない。朝日が昇り、辺りが明るくなってから皆で様子を見に行ってみると、逃げ遅れた女の子は、道に倒れ伏したまま気絶していた。

急いで病院にかつぎ込んだが、彼女の意識はなかなか回復しなかった。夏休みが終わりに近づき、Kが帰る頃になっても、まだ寝たきりだった。

彼女とは何の関係もないKは、そのまま戻ってきたので、その後、どうなったのかは分からないままだという。

ペンションのオーナーに聞いてみたところ、あの道は、地元の人間は夜中は絶対に通らないのだ、と苦い顔で言った。何があったのかは、教えてくれなかったというが……。
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