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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2011年11月20日 (日) | 編集 |
N村さんの下宿屋に世話になっていた時代、Kという人物と親しくなった。

Kには、すこしばかりの霊感のようなものがあり、何度もいやな体験をしてきたという。私が怪談好きと知って意気投合し、いろいろな話を聞かせてくれた。

これから、彼から聞いた話をいくつか紹介したい。ただ、彼と会っていたのは、ずいぶん昔のことになる。話の記憶がいくぶんあやふやだが御容赦願いたい。

Kは写真に興味があり、大学でもその方面の勉強をしていた。有名な写真家の弟子になり、仲間と一緒に写真展を開いたこともある。私も何度か招待状を受け取ったことがある。

写真に深く関わったKらしく、写真にまつわる話を聞かせてくれた。

当時、大学生だったKは、生活費の足しに写真屋でアルバイトをしていた。

ある日、「この写真を見て欲しい」と、男性客が写真を持ち込んできた。現像がうまくいっていないクレームだろうか。Kは思ったが、そうではなかった。

写真には、男性客の奥さんとおぼしき女性が写っている。幸せそうな笑顔でカメラに向かって手を振っている。

問題は、その手だ。指が六本ある。

「これは何でしょうか。妻が気味悪がっているので見てもらえませんか」

手を振っているのだから、ブレて指が多いように見えている可能性もある。だが、輪郭ははっきりしている。これは、ブレではない。たしかに六本の指が写っているのだ。

では、なぜ指が六本に見えるのか。この写真が何を意味しているのか。そこまでは、Kには分からない。

「分かりません」と返してしまうことも出来たが、不安そうな表情の男性客を見ていると、それでは気の毒に思えた。Kは、写真を一週間お預かりできませんか、と提案した。

写真の解析をしてくれるところがあるのだという。フィルムのメーカーと聞いた記憶があるけれど、あやふやではっきりしない。誰が頼んでも引き受けてくれるのか、料金はいくらかといった細かい話も、聞かなかったので分からない。

「解析」といっても、写っているものの正体を調べてくれるわけではなく、色の解析をするのだそうだ。

写真に写っている六本の指。その中の五本は、女性の本当の指のはず。本当の指と、指のように見える、あるはずのない「何か」。

肉眼では、微妙な色合いの差が判別できなくても、機械的に精密に解析すれば、違いが明らかになるかも知れない。指なのか、そうでないのか分かれば良い。

「何か」が指ではないと分かれば、女性の肌の色に近いもの、例えば、後ろにいた他人の身体が、たまたま絶妙な角度で重なって写り込んだだけ、とでも考えて安心することができるのだから。

そして一週間後、結果が返ってきた。

五本の指と余計な一本は、全く同じ色であった。つまり、このデータを見る限り、一番自然な解釈は「指が多い」ということ……。

男性客が、結果を聞きにやってきた。

「どうでしたか」

「ご心配ありません。やはりブレが原因で、このように見えるだけだそうです」

「そうでしたか」

男性客は、ホッとした表情で写真を受け取り、何度も礼を言って帰っていった。

これでは、男性を騙したことになりはしないか。でも、正直に伝える必要はないと思うよ。と、Kは言った。

「指が多いとか、よくあることだから。何なのかは分からないし、気味は悪いけどね」
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