2011年11月18日 (金) | 編集 |
千葉県M市にあるY霊園。
タクシーを止める女の霊がでたり、夜には墓地の中で人魂が飛び交っているといった噂話を聞く。なかでも、十三区という区画で怪異が頻発するという。
ある日のこと。自分を含めて八人での肝試しをした。私と染井は、霊園の中央に車を止めて、六人がひとまわりして戻ってくるのを待っていた。
時刻は、午前三時すぎ。
夜間のY霊園は、正門付近に照明があるだけで、内部には明かりがないが、この日は満月に近い月が出て、懐中電灯を持たなくても歩くのに十分な光を投げかけてくれていた。反面、延々と続く墓石の列も照らし出されているので薄気味悪くもある。
私と染井は、ほとんど会話を交わさなかった。互いに、なんとなく物思いにふけりながら黙り込んでいた。
(まだかなあ)
ぼんやり待っていると眠くなるもので、何度もあくびが出る。
と、かすかに声が聞えてきた。まだ距離があるようで、何を喋ってるのかは聞きとれない。
ああ、もどってきたなあ、とおもった。
ゆっくりと音が近づいてくる。なにかが変だ。どうも、話し声という感じがしない。会話ならば、声が交互に、あるいは混じって聞えてくるはず。それなのに聞こえている声は、どうやら一人のもの。
う~~~う~~~う~~~
喋り声ではないし、唸るように力が入った感じでもない。こわくなってきた。
「ねえ、何か聞こえないかな」
染井に声をかけると、
「あ……なんの音でしょう」
と言う。染井にも聞こえているらしい。とすれば、私の空耳ではない。
う~~~う~~~う~~~
「近づいてきてる……よね」
「ええ、来てますね」
「来てるよ……」
「来ましたね……」
まっすぐ私たちに近づいてくる。間違いなく人間の声。男の声だ。
声が遠かった時は、「う~~」に聞こえていたが、そんな単純な発声ではなかった。
ウィィィウェェェェウィィィウゥゥウェィゥゥゥ……
独特の抑揚がついて、何かの呪文のようだ。お経とも、ちょっと違う。イスラム教のコーランの詠唱というのが雰囲気が近いかもしれない。
ウェェェウィィウゥゥゥゥウィィウゥゥゥゥゥ……
声は車のすぐそばに来た。
ウィィィウゥゥウェェェェェウゥゥ……
車の左後ろ側、そこに誰かがいる。助手席に座っていた私には、ほとんど真後ろから声が聞こえる。サイド・ミラーを覗いたが姿はない。ゆっくり振り返ったが、誰もいない。
ウィィウゥゥウェェウィィィィウゥゥゥゥ……
では、この声は一体なんだ。
声は、車の後ろにぴたりとついたまま離れない。恐ろしくてたまらなかったが、思い切って飛び降りた。
ところが、今の今まで車の真後ろから声がしていたというのに、外に出てみると意外にも声が遠い。
墓の列をぐるりと廻り、声の方向へ歩いてみる。おかしなことに、声がしていた辺りに行ってみると、今度は違う場所から聞こえる。
まるで追いかけっこをしているようだった。染井とさんざん探しまわったけれど、声は近づいたり遠のいたりするばかりで、正体がわからない。
皆が帰ってきた後も、声は続いていた。不思議なことに、八人のうち、声が聞こえているのは私と染井を含めて三人。あとの五人は全くの無音だと言う。
私は数えれば十回以上、Y霊園に肝試しに来ているが、不思議な声が聞こえたのは、この一度きり。似ている音が聞こえたことすらない。なんの音だったのか、いまだに分からないでいる。
そのあと、心霊サイトを運営するようになった私はY霊園も紹介しようと、写真撮影のために中に入った。なにも起こらなかったし、写真にも異変はない。
だが、帰り際に、染井がぼそりと呟いた。
「声のこと覚えてますか。最初に、あれが聞こえてきた方向って、十三区のあたりからですよ」
タクシーを止める女の霊がでたり、夜には墓地の中で人魂が飛び交っているといった噂話を聞く。なかでも、十三区という区画で怪異が頻発するという。
ある日のこと。自分を含めて八人での肝試しをした。私と染井は、霊園の中央に車を止めて、六人がひとまわりして戻ってくるのを待っていた。
時刻は、午前三時すぎ。
夜間のY霊園は、正門付近に照明があるだけで、内部には明かりがないが、この日は満月に近い月が出て、懐中電灯を持たなくても歩くのに十分な光を投げかけてくれていた。反面、延々と続く墓石の列も照らし出されているので薄気味悪くもある。
私と染井は、ほとんど会話を交わさなかった。互いに、なんとなく物思いにふけりながら黙り込んでいた。
(まだかなあ)
ぼんやり待っていると眠くなるもので、何度もあくびが出る。
と、かすかに声が聞えてきた。まだ距離があるようで、何を喋ってるのかは聞きとれない。
ああ、もどってきたなあ、とおもった。
ゆっくりと音が近づいてくる。なにかが変だ。どうも、話し声という感じがしない。会話ならば、声が交互に、あるいは混じって聞えてくるはず。それなのに聞こえている声は、どうやら一人のもの。
う~~~う~~~う~~~
喋り声ではないし、唸るように力が入った感じでもない。こわくなってきた。
「ねえ、何か聞こえないかな」
染井に声をかけると、
「あ……なんの音でしょう」
と言う。染井にも聞こえているらしい。とすれば、私の空耳ではない。
う~~~う~~~う~~~
「近づいてきてる……よね」
「ええ、来てますね」
「来てるよ……」
「来ましたね……」
まっすぐ私たちに近づいてくる。間違いなく人間の声。男の声だ。
声が遠かった時は、「う~~」に聞こえていたが、そんな単純な発声ではなかった。
ウィィィウェェェェウィィィウゥゥウェィゥゥゥ……
独特の抑揚がついて、何かの呪文のようだ。お経とも、ちょっと違う。イスラム教のコーランの詠唱というのが雰囲気が近いかもしれない。
ウェェェウィィウゥゥゥゥウィィウゥゥゥゥゥ……
声は車のすぐそばに来た。
ウィィィウゥゥウェェェェェウゥゥ……
車の左後ろ側、そこに誰かがいる。助手席に座っていた私には、ほとんど真後ろから声が聞こえる。サイド・ミラーを覗いたが姿はない。ゆっくり振り返ったが、誰もいない。
ウィィウゥゥウェェウィィィィウゥゥゥゥ……
では、この声は一体なんだ。
声は、車の後ろにぴたりとついたまま離れない。恐ろしくてたまらなかったが、思い切って飛び降りた。
ところが、今の今まで車の真後ろから声がしていたというのに、外に出てみると意外にも声が遠い。
墓の列をぐるりと廻り、声の方向へ歩いてみる。おかしなことに、声がしていた辺りに行ってみると、今度は違う場所から聞こえる。
まるで追いかけっこをしているようだった。染井とさんざん探しまわったけれど、声は近づいたり遠のいたりするばかりで、正体がわからない。
皆が帰ってきた後も、声は続いていた。不思議なことに、八人のうち、声が聞こえているのは私と染井を含めて三人。あとの五人は全くの無音だと言う。
私は数えれば十回以上、Y霊園に肝試しに来ているが、不思議な声が聞こえたのは、この一度きり。似ている音が聞こえたことすらない。なんの音だったのか、いまだに分からないでいる。
そのあと、心霊サイトを運営するようになった私はY霊園も紹介しようと、写真撮影のために中に入った。なにも起こらなかったし、写真にも異変はない。
だが、帰り際に、染井がぼそりと呟いた。
「声のこと覚えてますか。最初に、あれが聞こえてきた方向って、十三区のあたりからですよ」
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