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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2011年11月14日 (月) | 編集 |
二十歳のころ、空気銃を使う戦争ごっこのような遊び、サバイバルゲームに夢中になっていた。

仲間は、昼間はいそがしい人間が多く、夜にあつまることが多かった。その日も夜のゲームで、集まったのは十人。五人ずつに組分けをする。

私はリーダーの染井と同じチームになった。

染井が「左右二手に分かれて、敵を挟み撃ちにする」と作戦を言う。私は染井と二人で右手側を受け持った。左手側の三人に「じゃ、頑張って」と声をかけ、分かれて走りだす。

私たちが進む方向は「本丸跡」があり、公園の中では一段高くなっている。ここに陣取り、敵の出方に応じて動きを変えるのがセオリーだが、挟み撃ちにする作戦なので本丸跡広場で立ち止まらず進む。

そのはずが、本丸跡広場に入ったあたりで、染井の足が止まった。前方の暗闇を指して、だれかがいるという。

それはない。本丸跡は私たちのスタート位置からすぐ近い。敵が全力で走ってきたなら足音が響くが、音は聞こえなかった。静かに移動して、私たちより先に到着し、気配を消すなど絶対に無理だ。

それでも染井は、間違いなく誰かが広場の角、鉄柵の外側に潜んでいると言い張った。

そこは人が立てるような場所ではない。鉄柵の外は崖で、足をすべらせたら十メートルは転げ落ちるような急斜面になっている。そのうえ、公園の中で、もっとも闇が深い一画で、足もとすらおぼつかない。

こんな危険な場所で、崖側に身をおいて片手で鉄柵をつかんで身体を支え、もう片手に銃を持って待ちかまえている奴などいるだろうか?

気のせいだよ。声をかけたが、染井は真剣だ。

どうしようかと思案しているうちに、音がすることに気がついた。染井の言う場所からではない。私のすぐ右横。それも、やはり鉄柵の外。

ザザー、ザザザザザー。

斜面を、すべり落ちていく音だ。やっぱり染井の言うとおりに誰かが潜んでいて、誤って滑落したのだろうか。

事故かもしれない。立ち上がろうとして、思いとどまった。ザザーと、また落ちていく。音は、一、二分おきに、何度も繰り返す。

聞き耳をたてていると、ザーッとすべり落ちる前に「ドスッ」と、木の枝にしては重い音がしている。猫や犬くらいの重さがある音に聞こえるのだが、いったいなんだろう。気味が悪い。

我慢しきれなくなった染井が「誰かが潜んでいる場所」に向かって撃ち始めた。軽くて甲高い発射音が響く。BB弾が木の幹や葉に当たる音に混じって、鉄柵に当たるカキン、カキンという金属音がしている。

誰かいるならば、これだけ撃ちこめば撃ちかえしてくるか、弾をよけるために身体を動かすものだ。反応は何もない。これは絶対に誰もいない。それでも染井は警戒を解かない。

だが、今から動くのも得策ではなかった。ゲームが始まってから時間がたっている。敵が近くにきていれば、射撃音を聞かれている可能性がある。

ほどなく、前方からかすかな話し声が聞こえてきた。やはり来た。染井も、そちらに視線を向けている。よし。

敵は小声で、ささやきあっている。内容は聞きとれないが、話し声がするということは人数は複数。近距離での撃ち合いになるかもしれない。一瞬、身ぶるいが起こった。この緊張感がサバゲの醍醐味だ。

声が近づいてくる。階段を登ってきた。敵の取るルートは二つ。一つは、本丸跡広場に直接入ってくる道。私たちの正面から出てくる。もう一つは、本丸跡広場の周囲に土手状になっている道。この場合、私たちから見て左側に現れる。

声は、ルートの分かれ道、本丸跡広場の入り口に来て止まった。

こちらを窺っているのだろうか。敵の姿は全く見えない。何人だろう。どう来る。引き金にかけた指に力がはいる。

サクッ、サクッ、と落ち葉を踏む足音が聞えた。ついに動き出した。

音は……左側に動いている。土手道を来るつもりらしい。土手を来られると、地面に伏せている私たちは、上から覗かれるかたちになるから分が悪い。見つかる前に撃たなければならない。

銃の狙いを定めようとして、とまどった。音の場所に敵の姿がない。足音は私たちの真横を通っていくというのに、なにも見えないのである。

土手までの距離は、ほんの三、四メートル。六畳間の長い方の幅と同じくらい。いくら暗いといっても完全な闇ではない。表情は分からなくても、この距離で人間の影が見えないはずがない。現に、土手の向こうにある木の枝は、影となって見えている。

そのまま、足音だけが私たちの目の前を通りすぎて背後にまわりこみ、手を伸ばせば届くほどの距離にある茂みに入って消えた。そんなバカな。

真後ろを取られてしまった。足音は一人だったから、前方にも敵が残っているはず。はさみ撃ちにする作戦どころか、自分たちがはさまれていては世話はない。

絶体絶命――。

ところが、それきり背後の気配は消えてしまった。前にいるはずの敵も動く様子がない。

私は思い切って後ろを振り向いて突撃した。撃たれるのは覚悟の上である。背後をとられた時点で負けなのだから、相打ちに持ちこめたら、もうけものだ。

気負いながら茂みの中へ突っ込んで、拍子抜けした。誰もいない。

地面には落ち葉と小枝が散らばって、少しでも動くと音をたてるというのに、いつの間に移動したのだろう。

気がつけば「ドス、ザザザザー」と、奇妙な滑落音が相変わらず聞こえている。見に行ったが何も落ちてこない。見ている間は音がしない。いったい、これはなんだろう?

染井が、さんざん気にしてた場所へ行く。斜面を覗きこんだが、誰もいない。

「おおい」

念のため、崖下の暗闇に向かって声をかける。やはり返事はない。

本丸跡広場の入り口へ行く。さっきは、たしかに、このあたりから話し声が聞こえた。

「ねえ、誰かいるかな。ちょっとゲーム中止。聞きたいことがあるんだけど」

いくどか呼びかけるが返事はない。誰もいない。まさか、最初から最後まで?

「帰ろう」

今の今まで、誰かを警戒して地面に伏せていた染井も立ち上がった。

休憩場所に戻ると、私と染井以外の全員がそこにいた。飲み物や煙草を楽しんで談笑しているところをみると、ずいぶん前に戻っていたようだ。

相手チームは五人がまとまって行動して、こちらチームの三人を簡単に倒したらしい。私と染井を探したが、見つからないので帰ってきたのだという。

誰か、本丸跡広場へ来たか訊くと「そっちは探さなかったなあ」との答え。ということは、私と染井だけが中に残って、いるはずのない誰かの気配と対峙していたことになる。

なんだよそれ、と思ったが、気のせいかもしれない。皆を脅かすのも悪いから誰にも言わなかった。

ところが、次のゲームで時間になっても戻ってこない奴が出てきた。そのうち帰ってくるだろうと放っておいたら、いくら待っても戻ってこない。何人かが探しに行った。

ようやく戻ってきた彼は、ある場所で敵がいると思い、ずっと弾を撃ち込んでいたと言う。その場所は本丸跡広場の角、人間が立つ場所などない鉄柵の奥。染井が引っかかっていたのと、まったく同じ場所だった。

「柵の外に誰かがいると思ってた」

と、言うことまで染井と一致しているのが気味が悪い。といって、はっきり何かを見た者がいるわけでもない。そこは特別に暗い場所だから、恐怖と不安で想像力が働いてしまうのかもしれない。それでも、一人の時に、あの場所に近づくのはやめようと思った。



サバゲの日からしばらくたって、私は友人ふたりと、真夜中の城址公園にやってきた。あとで話を聞けば、皆もそれぞれ「なんだかヘンだなあ」とおもう体験をしていたことがわかり、「あそこ幽霊でるんじゃないの?」などと話がもりあがっていた。

ちょっと、たしかめに行こうか、という軽いノリでやってきたのである。

ところが、あの日は、ひっきりなしに音がしていたというのに、この日はまったくの無音。風の吹き方に、それほど違いがあったように思えないのだが、なにも落ちてこない。

私たちは、この場所で何十回となくサバゲをしているが、妙な滑落音を聞いたのは、結局、一度きりだった。まったく不思議だ。

手持ち無沙汰なまま、本丸跡広場でうろうろしている時、公園の入口の方向で、コーン、と金属音が響いた。ジュースの空き缶をアスファルトに落とした音のように聞こえた。時計を見ると午前三時。

急いで見に行ったが、誰もいない。自動販売機があるので、夜ふかしな近所の人がジュースでも買いに来たのだろうか。

「きっと、そうだよね」

友人が言ったのと、ほとんど同じタイミングだった。

アハハハハハハハハハハハハ

道路をはさんで向い側にある高校から、若い女のすさまじく甲高い笑いが響いた。真夜中の高校に誰かいる……?

ぞっと全身が総毛だつ。

どこかの女の子が、こっそりと忍び込んで、友だちとジュースでも飲みながら、おしゃべりしているのだろう。さきほどの金属音も彼女たちのたてた音だ。きっと、そうに違いない。確かめる勇気など、あろうはずがない。

この高校からは、夜になると時々、若い女の絶叫が聞こえるという噂があるのを聞いたのは、ずいぶん後になってからだったが……。
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