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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2010年04月05日 (月) | 編集 |
仕事嫌いなあたくしは、宝くじが当たったら即刻仕事をやめて読書三昧の日々で人生を浪費したいと夢想している。宝くじが当たらなくても読書三昧したいのであるが、経済事情が許さぬゆえ、いやいやながら出勤する。

どこかに、本を一冊読んで一万円もらえるような仕事はないだろうか。

ただでさえやる気がないところへもってきて、朝から鬱陶しく雨が降っているとなれば、士気はベルリン陥落間近のドイツ国防軍のように崩壊しており、どんより濁り目で、たれぱんだと戯れる妄想にふけっていた。

九時を過ぎたころであったろうか。女性が慌てた様子でビルに駆け込んできた。四階に事務所をかまえる某社の事務員さんである。

「おはようございます」

挨拶をしようとした絶妙なタイミングで、その女性は足を滑らせ、吉本新喜劇でボケが決まったときのような見事なコケっぷりを見せた。

駆け寄って助け起こすと、階段の角に額を打ちつけたらしく、パックリと傷が開いて大出血。顔面血まみれとなっていた。キャー。

清潔なタオルで傷口をおさえさせ様子を見ると、意識ははっきりしている。幸い、市街地の中心部なので周囲にいくつも病院がある。一番近いのは徒歩三分のところにある、外科の個人医院。そこに行くか? 聞くと、「うーーん」と唸っている。

じゃあ救急車を? 女性が頷いたので119番で救急車を要請。これまた、救急隊の待機所が路地のすぐ裏にあるという場所で、三分もかからず救急車が到着した。

救急車に乗せて送り出し、ホッと安心したのであるが、玄関のところに点々とこぼれている血を掃除せねばならなかった。血というものは、なかなか落ちないで大変だね。

――それから数日後、その女性が事務所に怒鳴り込んできたのである。

開口一番こういうの。

「上司にお礼を言えと言われたから来たのですけど、あんたたちに何一つ世話になってませんから、お礼なんか言う必要はありません」

この女性、年は五〇歳をすぎている。おいおい、お礼を言うどころか喧嘩うりにきたぜ! あの時、現場にいなかった同僚たちは、なんのことかワケが分からず目を白黒させている。仕方なく、当事者のあたくしが対応した。

「あんたの常識のなさは信じられないわ! なんでわたしを一人で救急車に乗せたの!」

ええええ。

この女性、あらため、おばはんは、一緒に救急車に乗って病院までついてくるべきだろうと言うの。そうは言っても、血が飛び散ってる玄関を掃除せねばいかんし、見たところ大丈夫そうでしたから……。

「お前の冷たさは信じられない。わたしは救急車なんか乗りたくなかった!」

だから最初、近くの医者に行くか聞いたじゃないですか。

「ほら、あんた異常よ! あんな、ちんけな医者で何ができるっていうの! 知らないみたいだから教えてあげるけど、額は急所なの! 出血多量で死ぬ可能性があるの! 手術が必要かもしれないじゃない!」

だったら救急車で問題なかったじゃないですか。

「信じられない! だから、どうして私を一人で乗せたの! 急死したら、どうするつもりだったの!」

どうするもなにも、救急隊と医者に任せる以上のこと、一般人のあたくしに何ができます? それとも、あたくしが付いていったら急死を防げるとでも?

「何言ってるの、あんた頭悪いんじゃないの! あたしの容態をじっと見てればいいじゃないの! このあとだって、あたしの病状がいつ急変するか分からないんだから! そうしたら、あんた殺人罪だからね! 覚悟しとくことね!」

医療のプロに防げない急死を、勤め先が同じビルにあるというだけの縁のあたくしに、どうやって防げというのか。

「あんた、お見舞いの電話もしてこないじゃないの! もしかしたら、あたしが家で死んでるかもしれないでしょうが! どう責任をとるつもりなの!」

はあ……。

ちっとも恐縮しない様子のあたくしに、おばはんはしびれを切らした。

「あたしをなめんじゃないわよ! あたし、人の心を読むのは得意なんだから。大衆演劇の早乙女太一君のファンクラブに入ってるんだけど、本当は、早乙女君の事務所とつながってて、誰がどのくらい熱を上げてて、どれくらいの資産があって、どれくらいのお金を注ぎ込みそうか、事務所に報告する役目があるの。スパイなわけ!」

おばはんがスパイなのと、今回の怪我とどう関係があるのか分からない。後ろで聞いてる同僚たちも困惑している様子。

「だって、あたしの母方の家系は霊能力を持ってるんだもの。祖母は、全国各地を廻って御託宣を降して歩いてたくらいなの。そういう能力に長けてる血筋なのよ! あたしにも能力が伝わってるの! あんたの冷血な心は簡単に読み取れるの! あたしをなめると不幸になるわよ! ざまあ見なさい!」

まーーーーーーーーーーーーーじで、れいのうりょく?

なんという恐るべき奥義を隠しているのであろう。私は霊能力者ですと宣言するなど、

「あのババア、まじきもいんだけどー。れいのうりょくとかって、ちょーありえないしー」
「あたまおかしいんじゃない」
「ねー、ぜってーババアあたまおかしいよねー。ちがうびょういんにいったほうがいいんじゃね?」
「まじウケンだけどー」

てな具合に、たちまちビル中に噂が広がるに決まっており、社会人生命をなげうっているとしか思えぬ。

あるいはこれが「己の命を投げ打ち、相手との相打ちを狙う」という、かの南斗究極秘奥義『断己相殺拳』であろうか。てことは、おばはんは南斗聖拳の使い手?! キャーーーー。

おじさん恐ろしくて全身が震えるわ。ほらみて、この波打つ横っ腹を。ぶよんぶよんと、干渉波が発生してるわ。最近、腹がハート様に似てきたの。別名、小太り爺さんなの。誰か小太りじゃ、ほっとけ!

「あんた方と、二度と口をきく気はないから! 話しかけないでちょうだい! 最後に一つだけ、あんたのために言っておくわ。友達や家族にはもっと親身になりなさい! そんな冷たい心じゃ、いつの日か痛い目見るわよ!」

おばはんは事務所のドアを力いっぱい叩きつけて、帰っていった。

あたくしが電波人間引き寄せ体質であることを知っている部長ったら、

「……お前、また変なの引っ張ってきたな。カンベンしてくれよ」

とか言うの。あたくし何か悪いことをしたであろうか? あっ、存在が悪なの? やかましいわ!

なお、おばはんが「あたしが死んだらどうするの!」と雄たけびをあげた瞬間、困った変態おたくのM木君が、

「死ねばいいじゃん」

ボソリつぶやいたのは、よくやった。貴様は嫌いだったけど、ちょっと好きになった。二級鉄十字勲章をとらせてつかわす。

*ジークHAGE!*
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