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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2020年05月24日 (日) | 編集 |
雲さん、という男性から聞いた話だ。

雲さんはその日、帝能という名の友人と、とある墓地へ肝試しに行く約束をした。まだ誰も運転免許を持っていない時期の話で、自転車で行くことになったのだが、雲さんの自宅からは自転車で一時間。帝能の自宅は、雲さんの家からさらに一時間かかる場所。

帝能は片道二時間の距離を自転車で移動することになるから、雲さんは電車を使うことを提案した。電車で早めに出かけ、近くのファミレスで食事がてら時間をつぶし、肝試しによい頃合いになったら墓地を探索。またファミレスに戻り、始発を待てば楽だろうと思った。

しかし、帝能は、

「まあ、なんつったらいいんでしょ、わたしって体力のある男なんですよ、異様に。ですから大丈夫です、はっきり言って」

という。本人がそれでよいならと、当初の予定のとおりに自転車で向かうことになった。

もう少しで墓地の正門に着く、というところで、帝能が、

「あっ」

と叫んで止まった。雲さんは場所が場所だけにドキリとしたが、自転車のタイヤがパンクしたのだった。

「帰ろうか?」

と聞くと、帝能は、ここまで来たから肝試しはしていきたい、という。

墓地の中を一時間ほど歩き、帰ることになった。帝能は、自転車を押してゆく。雲さんも、それにつきあって自転車を押して歩く。自転車で一時間かかるのだから、歩いたらどれほど時間がかかるか考えると、雲さんは気持ちが重くなった。

帝能が先に立って進み始めた。しかし、向かう方向が逆だ。そっちではない、と指摘した雲さんに、

「いえ、こっちで大丈夫です、どう考えても。まあ、なんつったらいいんでしょ、わたしは道にくわしい男なんですよ、異様に」

と帝能が答えた。しかし、雲さんは父方の墓がこの墓地にあり、何度も来ているために道がわかる。逆方向だ、と重ねて意見したところ、帝能がキレた。

「いえ! 絶対に! 大丈夫です! わたしにまかせてください! すこしでも近道して早く帰りたいんですよ!」

鋭い声をあげる帝能に、そこまで言うならと雲さんは引き下がった。

だが、あきらかに自宅から遠ざかってゆく。あれだけ自信ありげに叫んだのだからと、しばらく様子を見ていた雲さんだったが、我慢できずに声をかけた。

「もう、ずいぶん時間たってるけど、どうなってるの? ここ、どこだかわかってるの?」

すると、前を歩く帝能は足を止めず、雲さんへ振り向きもしないまま、金切り声をあげた。

「なにを言ってるんですか! わたしが道を知ってるわけないじゃないですかッ!」

「はあ!?」

「……」

「それで、どうすんの」

「さあ! わたしは知りませんね!」

「先導かわるわ」

「はあ、そうですかッ! とっとと、そうしてくれればいいじゃないですかッ! わたしは疲れてるんですよ! もっと、わたしのことを考えたらどうなんですか! いい加減にしてください!」

雲さんの家にたどり着いたのが、それから一時間以上たってから。墓地を出発してから三時間以上たっていて、夜が明けてすっかり明るくなっていた。

帝能の家は、さらに自転車で一時間かかる。自業自得だ、と雲さんは思っていた。雲さんも疲れはてていた。

帝能がブロック塀に自分の自転車を立てかけて、

「ちょっと、この自転車おさえててください」

という。雲さんは、パンクした箇所をチェックするのだろうかと思い、自分の自転車を立てて、帝能の自転車を持った。その瞬間、帝能が素早い身のこなしで雲さんの自転車に飛び乗った。

「この自転車は借りていきます。わたしの自転車は修理して届けてください。明日使いますから、必ず、今日中に届けてください。わかりましたね」

まるで捨て台詞のような口調で言い、雲さんの自転車を奪い去っていった。一瞬の出来事で、雲さんは、あっけにとられて見送るしかなかった。

とにもかくにも一寝入りして、起きたのは夕方近く。帝能の家に電話をするも、つながらない。正しくは、親が帝能に取り次がず、ガチャ切りのように切ってしまうのだ。

雲さんは仕方なく、途中で自転車を修理しながら、帝能の家に届けに行った。自分の自転車に張り紙があった。

「わたしは寝ていますから起こさないでください。勝手に乗って帰ってください」

お礼の言葉など書かれていなかった。

その後、帝能に会った時も一言の礼もなく、自転車の修理代も、ついに払われることはなかったという。
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