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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2017年10月03日 (火) | 編集 |
東京の西にある病院で、夜間・休日警備業務に就いていた人の話。


――1.工事中の部屋から内線電話がかかってくる。

夜間・休日の外線電話は、まず警備員が受けることになっていて、この電話対応業務が一番の仕事だった。

救急隊からの受け入れ要請、救急外来にかかりたい患者からの問い合わせ、外部の病院からの転送問い合わせなど、かかってきた電話内容によって、然るべき部署につなぐのである。

場合によっては、入院病棟から患者が暴れているから助けにきてくれ、といった内線電話がかかってくることもあり、瞬時の判断で適切な対応をとらねばならず、まったく気が抜けない仕事だった。

PHSが鳴る。画面を見ると3桁の数字が表示されている。これは、内線電話の番号である。

「はい、警備室です」

電話に出るが、相手は何もしゃべらない。

「もしもし?」

数度、話しかけるも無言。しばらくして切れた。かけ直してみるが、つながらない。内線番号表で確認すると、とある部屋からかかっていた。

しかし、この部屋では工事が行われていて閉鎖中。電話は撤去されているはず。

それでも、入院患者が迷いこんで具合が悪くなったとか、怪我をしたとかで救援を求めてかけた電話が、たまたま警備員のPHSにつながった可能性もある。確認しなければならない事案である。

部屋にゆく。やはり工事中で、部屋の内装品はすべて撤去されている。照明もつかえず、真っ暗だ。懐中電灯で確認するが、だれもいない。電話機は外されて、線だけがぐるぐる巻きにまとめられて、ぶら下がっていた。

かかってくるはずのない電話であった。


――2.だれもいないのに点灯する明かり

夜中の1時すぎに定時巡回をする決まりになっていた。各部屋のドアの鍵はしまっているか、閉め忘れている窓はないか、ひとつひとつ確認しながら歩いてゆく。

1階の廊下のつきあたりは小児科である。確認して、戻ろうとした。小児科の手前にある女子トイレに、明かりがついている。この照明は人感センサーで自動的に点灯する。

繰り返すが、廊下のつきあたりにある小児科の手前のトイレ。さきほど、廊下をやってきたときは、明かりはついていなかった。タイミング的に、いまトイレに入っている誰かは、巡回する警備員の、すぐ後ろについて歩いてきたとしか考えられない。

だが、ついてくる人などいなかったし、足音も聞いていない。

しばらく待った。やがて、明かりが消えた。消灯も自動で、人感センサーに反応がなくなってから数分で行われる。

センサーは、便器に腰掛けながらでも上半身をゆする程度の動きで反応するくらい鋭敏なものだ。それが消えたということは、中には誰もいないか、いても、まったく動いていない。

本来、男性警備員は女子トイレの確認はしなくていいことになっていたが、万が一を考え、

「おそれいります、警備員ですが、どなたか入っていらっしゃいますか?」

と、ドアをあけて入り口から声をかけるが、個室はすべて開いている。だれもいない。トイレに入る音も、トイレから出てゆく音も、水洗する音も、手を洗う音も、自分以外がたてる音は一切聞いていない。

人感センサーは、何に反応したというのか?


――3.小児科に、だれかいる。

昼の勤務に入るため、朝の8時に警備室に入った。夜勤番は65歳の、おじいちゃん。疲れきった顔で椅子に座っていた。

「おれ、昨日、小児科で聞いちゃったよ」

と言う。

何がです? 訊ねると、こういう答えだった。

定時巡回のとき、小児科のドアの向こうで足音がすることに気づいた。診察室の中で、パタパタ走り回ってるヤツがいるのだ。すわ、侵入者と、緊張してドアを開けようとするが鍵はかかっている。

そっと、錠をはずし、ドアを開いてゆく。足音は消えた。ドアの横にある照明のスイッチをすべて入れると、パッと部屋が明るくなる。だれもいない。カーテンの裏、ベッドの下、念入りに確認しても、だれもいない。開いている窓もない。

おかしい。聞き間違いかな。

不審に思いながら、明かりを消し、ドアに鍵をかける。さて、次へゆくか。と、離れかけた瞬間、ドアのむこうから、また、パタパタっと足音が聞こえた。ゾッと総毛立つ。

そこで気がついた。足音が軽い。これは、子どもの足音だ。

「ということがあってさ」

「まじですか」

「いや、実はこれ、だいぶ前の話でさ」

「はあ」

「おれ、足音また聞いちゃったんだよね。本当はダメなんだけど、こわくて中はいれなかったから確認してない。悪いんだけど、もう明るくなったでしょう。小児科みておいてくれる?」

「わ、わかりました」

その日、引き継ぎして最初の仕事は、小児科の確認。もちろん、中には誰もおらず、窓も開いていない。ドアの鍵もきちんと閉まっていた。

真夜中の小児科で足音をたてていたのは、だれだったのか?

(つづく)
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