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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2011年11月17日 (木) | 編集 |
友人の女性、Hさんから聞いた話だ。

彼女は、今では、そういうものをあまり感じなくなったが、昔はいろいろな体験をしたという。

中校生のころ。自転車で、友達と楽しいおしゃべりをしながらの学校の帰り道。先を走っていた友達が、道に黒猫の死体があるのを気づかずに轢いてしまった。

「猫、轢いちゃったよ……」

「えっ、ウソっ」

Hさんの言葉に、友達は慌てて自転車を止めた。

いくら死んでいると言っても、気持ちのいいものではない。Hさんは、自分が轢いたのではなかったが、友達と一緒に心の中で「ごめんね」と謝りながら帰った。

その夜のこと。

寝ていたHさんの耳に、猫の鳴き声が聞こえてきた。Hさんは猫など飼っていない。

(猫?)

不思議に思ったHさんは、身体を起こそうとしたが動かない。金縛りだ。必死にもがいたが、金縛りは解けない。

猫が、とん、と布団の上に乗ってきた。うっ、と、息がつまる。

Hさんは、寝るときには明かりを全て消す習慣があるので、部屋は暗闇。それでも、不思議なことに猫の姿が見えたという。

黒猫だった。

(あっ、来ちゃった)

Hさんは思った。どうしようか迷ったが、身体が動かない。じっと耐えるしかなかった。

猫は、布団の上を顔の方に移動してくる。その一歩一歩に、たしかに重みを感じる。

猫は、にゃあにゃあ鳴きながらHさんの顔に身体を擦りよせてくる。猫の喉が、ごろごろと鳴っている。怒っている風ではなく、じゃれているように感じられたので、なんとなく安心して猫の好きにさせていた。

ふと猫の爪が目にとまった。なぜか爪が長く伸びている。黄色くて、みるからに固そうな爪だった。

そのうち、猫は布団の中に入ってきて、腕にじゃれついてきた。猫は遊んでいるつもりなのかもしれないが、爪が皮膚を引っ掻いて痛い。

(痛い、痛い)

声が出せない。身体も動かない。痛みを我慢しているうちに、Hさんは、いつしか眠っていたという。

朝、目覚めてみると、猫はいない。雨戸はきっちり閉まっている。外から入ってこられるはずがない。

やっぱり、あの時の猫だったのかなあ、とは思ったけれど、轢いたのは友達であって自分ではない。なぜ自分の所に出たのかは分からなかった。

学校で、猫を轢いた友人に、

「昨日の猫、私の所に来たよ」

と話した。友達は、簡単には信じようとしなかった。

「夢でも見たんじゃないの?」

「確かに来たよ」

「証拠の傷でも残ってれば信じるけどさ」

「そんなもの、あるわけないじゃん」

そう言いながら、制服の袖をまくり上げてみると、手首から肘にかけて、はっきりと引っ掻き傷が一本すーっと走っている。

友達は驚いたが、自分もびっくりした。友達が轢いたのは、猫の左前脚。Hさんの傷も左腕……。

怖くなって、放課後、友達ともう一度猫に謝りに行った。

ところが夜、また猫はやって来た。

猫は昨日と同じようにHさんにじゃれつき、布団の中に入ってきた。腕にまとわりついてきたが、昨日ほどの痛みを感じない。

猫の爪が、いくぶん短くなっていた。色も柔らかそうな白に変わっている。猫のするがままに任せているうちに、また、Hさんは寝入ってしまった。

朝、やはり部屋に猫の姿はなかった。

そして、三日目には、もう猫は現れなかった。

「怒ってる様子じゃなかったので、それほど恐怖は感じなかった。たまたま波長が合って、来てしまったのかも知れないけど」

そう、Hさんは言った。
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