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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2011年11月30日 (水) | 編集 |
中学時代からの友人、Yの話。

暇があると遊び歩く仲だったが、Yが名古屋の大学に進んでからは、会えるのは彼が実家に帰ってくる、正月と夏休みだけとなってしまった。

ある年の夏、帰省したYから「会おう」と電話がきた。つもる話を交わすうち、Yが「気持ち悪い話があるんだよ」と、声を潜めて怖い話を始めた。

名古屋の、わりあい交通量の多い場所に、有名なお化けトンネルがある。そのトンネルでは、壁を触ってはいけないとされていた。ふざけて壁に触れると、帰り道に事故にあったり、連れて帰ってきてしまったり、大変な思いをするのだという。

ある日、男数人が集まって酒盛りをした。店に入るよりも、家で飲んだ方が安いからと、それぞれ酒とつまみを用意して、仲間のBのアパートに集合した。

ああでもない、こうでもないと馬鹿話で盛り上がるうち、Bが思い出したように口を開いた。

「そういえば、先輩に肝試しに連れてかれてさ。お化けトンネルってのがあって、壁さわっちゃいけないって言うから気をつけてたんだけど、先輩がふざけて俺のこと突きとばすから、つい、壁に手をついちゃって」

「そんなの、ただの噂だろ? 気にしなくていいじゃん」

「俺も、そう思ってたんだけど」

うかぬ様子のBの表情に、皆も、なんとなく息を呑んで話に聞き入った――。

Bを突き飛ばした先輩は、ケラケラ笑っている。

「あーあ、お前、壁さわったな。なにが起きるか楽しみだな」

「勘弁して下さいよ」

Bは先輩のいたずらにも軽く答えた。事故に遭うだの、連れて帰るだの、安っぽい作り話にいかにもありそうな噂だから、信じていなかったのだ。

それでも、自分のアパートの前で車を降ろされる時、

「なにかあったら、すぐ電話しろな。楽しみにしてるからさ」

と言われたときは、さすがにむかっ腹がたち、蹴り飛ばしたくなったが、

「はーい、電話します」

と、何食わぬ顔で答えて別れた。

疲れていたBは、すぐに寝床に入って眠りについた。

どれくらいたったのだろう。

ふと目が覚めた。寝返りを打とうとして、金縛りにかかっていることに気がつく。

いろいろともがいてみたが、どうにも身体は動かない。いやだなあ、と思った瞬間だった。

「ただしぃー……」

玄関から、Bの名前を呼ぶ声がしたのである。えっ。驚きで思考が止まる。

「ただしぃー。ただしいぃー」

六畳一間に、せまい台所の安アパート。玄関から部屋までは、ほんの数歩だ。

すぐに声が近づいてきた。台所と部屋の間仕切りには、ガラス戸が閉まっている。薄暗い中、そこに誰かのシルエットが浮かび上がっている。そいつが、Bの名前を呼ぶのだ。

「ただしぃー。ただしぃー」

男の声だった。友人だろうか。だが、玄関の鍵は、たしかに閉めた。入ってこられるはずがない。泥棒ならば、わざわざ名前を呼んで起こすような真似をするはずがない。

連れてきちゃった! あの話は、本当だったのか!

「たぁだぁしぃぃ。たぁだぁぁしぃぃぃ」

あいかわらず身体は硬直したまま、ぴくりとも動いてくれない。

(うわぁぁぁぁ、ごめんなさいごめんなさいぃぃ。もう、ふざけて触ったりしませんから、帰って下さいっ)

全身から汗がふきだしてくる。ガラス戸を開ければ、すぐBの寝ている枕元である。

「たぁだぁしぃ。たぁぁぁだしぃぃぃ」

(ごめんなさい、帰って下さい、ごめんなさいぃぃぃっ)

それを繰り返し、気がついた時には朝になっていたという。

Bの話を聞いたYたちは、話が終わった後も、しばらく黙ったままだった。

Bの表情は、冗談を言っているとは思えないほど真剣だった。皆が集まっているこの部屋で、ほんの二、三日前にあった出来事だという。薄気味悪いものを感じて言葉を失ったのも無理はない。

だが、誰からともなく、

「またまたあ。俺たちを恐がらせようとして。夢だったんじゃないのか?」

と、言いだし、Bも、

「そうだよな、きっと夢だったんだよな」

そう応じて、沈んだ雰囲気を吹き飛ばすように、場はそれまで以上に盛り上がった。

これで終われば、Bが気にしないつもりでいても、心の底では気にかかっていた不安が夢に出てきたのだ、と言ってしまえるだろう。

だが……。

飲み会から数日後。Yのアパートに、顔面蒼白にしたBが飛びこんできた。

手に写真の束を持っている。飲み会の様子を撮影していたフィルムを、現像に出していたのができあがったので、受け取ってきたところだという。

Bは息せき切って、写真を見ろ、と促す。なんだと訊ねても、いいから見てくれ、としか答えない。妙なものが写っているに違いない。

(ああ、嫌だな)

Yは思ったが、しかたがない。写真を手にとって、一枚ずつめくっていった。

おかしなポーズをとっている男。腰に手をあてての一気のみ。ここぞとばかりに、尻をむきだしている写真。酒に酔った男たちの、馬鹿な乱痴気騒ぎの記録である。

「それ」は、見た瞬間に分かった。皆で写真に入るために、集まって肩を組んでいるところ。玄関の方向から部屋に向かって撮った。だから、背後には窓が写っている。

問題は、その窓ガラスだ。

窓の外から、ひょい、という感じで中年の男が中を覗き込んでいる。しかし、窓には雨戸が閉められている。

ということは、部屋の中からの反射でないかぎり、男は、雨戸とサッシ窓の数㎝の隙間にいることになる。当然、部屋の中にこんな男はいなかった。

「こいつ……」

ふるえる声でBが言う。Yにも、Bの言わんとしていることはすぐに分かった。

トンネルから連れてきた男――。

「えらく気味の悪い写真だった」

Yは、私に言った。できたら写真を見せてもらえないかと頼んでみたが、知り合いの間で評判になり、手から手へと渡って、どこに行ったのか分からなくなってしまったらしい。

Bの部屋は、その後は、なにも起こらなかったそうだ。

はたして、写真に写った男がトンネルから着いてきた奴なのか、最初から部屋に住み着いている男なのか、はたまた、たまたま通りがかったところを写しこんでしまったのか、結局、分からないままだという。
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2011年11月29日 (火) | 編集 |
友人二人と一軒家を借りて、男三人の共同生活をしていた時期がある。

三部屋ある家の、一部屋ずつを自分の部屋にしていた。雑多で騒々しく、落ちつける環境ではなかったが、楽しいことも多かった。

ある日、同居人Aのところに、彼の友人が訪ねてきた。しばらく二人でなにか遊んでいるようだったが、あきたのか私のところへ来て

「おもしろいことありませんかね」

などと言う。

怪談でもしようか、と提案すると、いいですね、とお気楽な言葉が返ってきた。明かりを消した真っ暗な部屋の中で怪談大会が始まった。終わってみると時刻は午前二時。Aの友人は帰っていった。

私も疲れた。布団に潜りこんで、すぐにまどろみ始めた。

どれくらいたったのだろうか。目が覚めた。なぜ自分が起きたのか分からず、また目を閉じようとした時、外で足音がしていることに気がついた。

誰かが、うちの駐車スペースを、ぐるぐる歩きまわっている。駐車スペースといっても、安い貸家だから、砂利敷きで車一台がやっと入るくらいの広さしかない。

その砂利をジャッ、ジャッ、ジャッと踏む音がする。犬や猫はこんな大きな足音はたてないし、移動する歩幅から考えて人間だ。

しかし、この駐車スペースには車は置いてないけれど、自転車二台、バイク二台が並んでいる。とても歩き回れる状態ではないのに、足音はスムーズに移動している。

駐車スペースは、私の部屋の真横。私はサッシ窓そばに布団を敷いているから、何者かは私から一メートルか二メートルの位置にいることになる。

最近、近所でバイク泥棒が出没していると聞いていた。泥棒かもしれない。そうっと起きあがり、一気にカーテンを開いた。

誰もいない。いつの間にか、足音も消えている。

念のためサッシを開けて様子を確認する。バイクにも自転車にもイタズラされた跡はない。逃げていくような足音もない。やっぱり猫だったのだろうか。それとも、空耳かな。

釈然としないながら、サッシとカーテンを元通りに閉め、再び横になった。なんでもないと分かると眠気がもどってきた。

うつら、うつら……。

また足音が来た。

遠くから、ザッ……ザッ……ザッ……と近づいてくる。やがて、うちの駐車スペースまで来ると、先ほどのようにジャッジャッジャッと音をたてて、ぐるぐる回りはじめた。

これは、何だろう。

帰ってくれないかと願って、しばらく聞き耳をたてていたが、足音は延々歩きつづける。

ただ、それだけ。

その他には何も起こらない。

静かに身体を起こし、今度はカーテンの隅を少しだけめくって、隙間から外を覗く。やはり誰もいない。その瞬間、足音もしなくなっている。

これはおかしい。何だろう。いやな気分で考えているうち、いつしか寝てしまっていた。

寝るのが遅かったせいで、目覚めたのは昼過ぎ。

夜のことが思い出されたけれど、不思議な出来事というだけで、あまり怖くはなかった。寝ぼけていたのかもしれない。顔を洗ったり、食事の支度をしているうちに忘れてしまった。

やがて、同居人Aも起きてきた。彼は私の顔を見ると開口一番、

「昨日は参りましたよ」

と、げんなりした表情で言う。

Aは、怪談の後、煙草を一本だけ吸ったら寝るつもりだったらしい。部屋の明かりを消して、ごろんと布団に横になり、ぼんやり天井をながめながら煙を燻らせる。

「もう、寝ちゃうの……?」

唐突に耳元で声がした。

かぼそい、小さい女の子の声だった。この家の中に、そんな女の子はいない。

うっ、と息が詰まる。

声のした方向には、真っ暗な空間があるだけ。何も見えない。

全身の皮膚が粟粒立った。慌てて明かりをつけ、ふるえながら布団にもぐりこんで、ようやくのことで寝たのだという。

Aは、はっきりした霊感があるわけではないが、なんとなく気配を感じる時があるという。何度か、奇妙な体験をしているらしい。

「久しぶりに嫌な体験しましたよ」

そう言われて、私もゾーッとした。じゃあ、私のアレも……?

「ああ、それは呼んじゃったんですね。集まってたんですよ」

顔がこわばる私を見てAは、にやりと笑う。怪談でさんざん怖がらせたお返しのつもりなのだろうか。
2011年11月29日 (火) | 編集 |
Kは、バイクが好きな男だった。

真夜中、海までひとっ走りして、朝日がのぼるのを見ながら、わかしたお湯でコーヒーをいれたり、カップラーメンを食べる。疲れた時には、そうやって気分転換をするのだという。

Kは、いつものようにバイクを走らせていた。市街からは離れた場所で、かなり遅い時刻。Kの前後に車はない。

まるで自分の専用道のように思えて、とても気分がよい。

片側2車線の広い道路で走りやすく、直線では、ついアクセルを開いてしまう。スピードは100㎞をこえていた。

と――遠く、前方の歩道の「へり」。電柱のそばに何かが立っている。布のようなものが、ひらひら揺れている。

電柱にくくりつけられている、捨て看板だろうか。捨て看板というのは、ちゃちな作りの木枠に布を張ったような、安っぽい宣伝のあれだ。

布が破れて風に煽られているのか……最初は、そう思っていたという。

バイクは、ぐんぐんと近づいてく。

「それ」は、捨て看板ではなかった。人間。女。

こんな深夜に、女がたったひとり。うつむき加減で車道側をむき、歩道のヘリに立っている。ゆらゆら揺れる布は、風にあおられたスカートだった。

どう見ても尋常な雰囲気ではない。飛びこみ自殺でもしようというつもりか。

(あぶないな)

Kはアクセルをゆるめ、ブレーキをかけて徐々にスピードを落とす。何が起きても対応できるよう、神経を女に集中させる。

みるみる間に、女が立っている場所まで近づいた。もう少しで女をやりすごせる。

その瞬間、それまでうつむいていた女が、キッと首をめぐらしてKを見た。

女と目が合った。

(うわっ)

Kは内心で悲鳴をあげた。

女はKの目を見すえたまま、ボールに飛びつくゴールキーパーのように両腕を伸ばし、飛びこんで来た!

スピードを落としたとはいえ、ころんだら大怪我を負う。Kは必死で女を避けた。バイクは反対車線に飛び出し、たまたま通りがかったバスに真っ正面からつっこんでいく形になった。

間一髪でかわす。

「バカヤロウッ」

バスの運転手の金切り声が聞こえた。後から考えると、あんな真夜中にどうしてバスが走っていたのか不思議だが、たしかに普通の路線バスだったという。

全身から冷や汗が噴きだした。今さらながらに身体がふるえた。あやうく死ぬところだったのだ。

「てめえ、ふざけんなッ」

女を怒鳴りつけてやろうと振りむいた。

ところが、女の姿がない。

周囲を見まわしたが、誰もいない。

女が飛びこんでから、ほんの数秒間の出来事だ。こんなに素早く身を隠せるものだろうか。まさか生きてる女じゃなかったのか?

ゾーッと背筋が寒くなった。

Kは、とにかく現場から離れようとバイクを急発進させた。

近くに、大学の友人Aが住むアパートがある。とりあえず、そこへ向かった。このまま家に帰るのは、連れて帰ってしまうような気がして嫌だったし、なによりひとりは怖い。早く誰かに会いたかった。

アパートに着いたが、ドアをノックしてもAは出てこない。帰っていないらしい。

真夜中の住宅街は、自分の他に起きている人は誰もいないのかと思うほど、人気がなく静まり返っている。あの女が、どこかの暗がりから、こちらをじっと見つめているような気がしてきた。

しかたがない、帰ろう。Kはバイクに飛び乗った。

この頃には、N村さんの下宿屋に住んでいるのはKとTの二人きり。いよいよ崩壊寸前の廃屋という態になっていた。

とてもじゃないが普通には寝られそうにない。二人の部屋は薄い壁をはさんで隣り合わせで、Tに悪いとは思ったが、テレビ、ラジオをつけ、音楽をガンガン流し、明かりをつけっぱなしにして、ようやく寝ることができた。

翌日、Kは大学でAに会った。

「お前、昨日家に帰らなかったのか? 実は――ということがあってさ。お前の家に行ったんだけど、いなかったじゃないか」

「研究が山場で研究室に泊まりこみだった。それにしても気味が悪い話だな」

「俺もまいったよ。あれって幽霊だったのかな……」

そんな話をして別れた、数日後のこと。

部屋で寝ていたKは、窓が音をたてているのに気がついて目を覚ました。

何度も書いているが、ここの下宿屋は古い。窓も、廊下のガラス戸も、昔ながらの木枠の戸だ。ペラペラのガラスが入っていて、わずかな風がふいただけで、やかましい音をたてる。

今日は、ずいぶんと風が強いな。ぼんやりと、そんなことを考えた。

何時だろう。ベッドの脇に置いてある時計を確認しようと、頭を回そうとして心臓が縮み上がった。

あれ、身体が動かない。……金縛りだ。

急激に心拍数が上がり、意識が冴えてくる。身体のいろいろな部分に力をこめてみる。目は動かせる。首はかすかに動く。だが、その他の筋肉は、がっちりと固まってしまっている。

これまで、何回か金縛りの経験はあった。嫌なものを見たこともある。

枕元に何かいるのではないか。

恐怖におののきながら、顔と目を精一杯動かして、部屋の中を確認する。何もいなかった。

よかった、身体が疲れているだけか。しばらくしたら解けるかな……。

そう思ったのも、束の間。今まで、風のせいだと思っていた窓の音が、急に耳につくようになった。

ガタガタ……ガタガタ……。

さっきより音が大きくなった。これ、風じゃねぇな。意識を向けて気がついた。風の音がしていない。

風のあるときは、ガラス窓が鳴るだけではない。電線が鳴る音、植物の葉が擦れあう音や、風圧で建物がきしむ音、いろんな音が混じって聞こえるものだ。それが、全くない。

それに、Kの部屋は角部屋で二面に窓がある。窓面積が大きくて、晴れている日は、とても日当たりがよい。音の原因が風だとしたら、全部の窓が揺れそうなものだ。しかし、音をたているのは、Kの頭の側にある一枚だけ。

ガタガタガタ……ガタガタガタ……。

さらに大きくなる。音が規則的だ。確実に人間の仕業だ。風ではない。

友だちかなあ。

Kの友人は、皆、Kが変なものを見ることを知っている。驚かしてやろうとして玄関から入らず、窓を叩いては隠れて遊ぶ奴が、たまにいる。そういう悪ふざけだろうか。

Kは力をこめて首を上にそらし、目を向けた。かなり苦しい体勢だけれど、なんとか視界の中に窓が入った。そこには、誰かがいた。

誰かは、身体を窓にぺたっと張り付かせるようにして、窓の桟を掴んでいる。ガラスは磨りガラスで、透明ではないから向こう側は見えない。しかし、身体をガラスに密着させているので、輪郭は浮かび上がっている。

女だった。

ガタガタッ……ガタガタガタガタッ!

開けて!

とでも言わんばかりに、女が窓を揺さぶっている。

こんな女、知り合いにいない。あの女だ、あの時の女だ。憑いて来てしまったに違いない。

ガタガタガタ! ガタガタガタガタッ!

(帰って下さい帰って下さい帰って下さいっっ)

Kは必死に、念仏を唱えながらお願いする。だが、窓の音は止まらない。

ガタガタ! ガタ! ガタガタッ!

(帰って下さいッ)

ガタ! ……ガタガタガタ!

(帰って、帰ってくれッッ)

そんな繰り返しが、どのくらい続いたのだろうか。いつの間にかKは意識を失っていた。

翌朝、目を覚ますと異様に頭が重い。おそるおそる部屋を見回すが、変わったところはない。

俺は夢を見たのだろうか?

夢とも、現実とも分からない。ただ、気分は最悪だった。

それから、しばらくした日。Kは、大学の仲間と、例の友人Aのアパートに集まっていた。

気のあった仲間だから、くだらない話で時間を忘れて盛り上がる。気がつくと、すっかり夜になっている。腹がへった。

メシ食いに行くかと、Aの車に乗り込んで、少し離れた場所にあるファミリーレストランまで出かけた。

ただ、そこへ行くのには、どうしても女が飛び込んできた「あの場所」を通らなければならなかった。やがて現場へ近づく。不安だったが、何もいない。よかった。

となると現金なもので、

「ここだよ、女が出たの、ここ」

友人たちに教えてやった。

「やめろよ、気持ち悪いから。俺、そういうの苦手なんだから」

友人たちは口々に騒いだ。皆、とうにKの体験を聞かされているから、ここが現場だと聞いて薄気味悪がった。

レストランでの食事中も、ひとしきり幽霊話に花が咲いた後、解散。Aが、それぞれの家まで車で送ってくれた。最後にKを下宿で降ろし、挨拶して別れた。

翌朝、まだ早い時刻に電話が鳴った。出てみるとAである。

「オマエさ、女が部屋に来たって言ってたよな」

心なしか、Aの声が震えている。

「その女ってさ、赤い服着てなかったか」

一瞬、ドキリとする。

そう言われて思い返してみると、たしかに、窓には赤い色がへばりついていた。そうだ、赤のノースリーブを着ていた。

「なんで知ってるの?」

Aが語り始めた話は、こうだった。

Kを降ろしたAは、自分のアパートに車を向けた。車には、もう誰も乗っていない。

「どこ行くの?」

突然、運転席と助手席の間から、ぬっと女が顔を出した。

悲鳴を上げて車を急停車させる。後部座席を振り返るが、誰もいない。今のは一体なんだ?

車を乗り捨てようにも、郊外の人気のない道路。Aは、必死で恐怖心を抑えて車を走らせ、最初に見えたコンビニの駐車場に飛び込んだ。

車から飛び降りて、外から車内をのぞく。やはり誰もいない。いるわけがない。

運転する気がしないので、日が昇るまでコンビニで雑誌を立ち読みして、時間を潰していたという――。

「なあ、俺どうしたらいいよ」

Aは心底困った声を出した。しかし、Kも霊能力者ではない。どうしたらよいのかは分からない。何もできなかった。

その後も、女はAの所に現れたらしい。Aを気に入ってしまったようだ。

Aは、Kに話を聞いて欲しいようで、何度か女の話を切りだしたことがあった。でも、Kはもう、あの女と関わり合いになるのはこりごりだった。然るべき所へ行くように勧め、話は勘弁してもらったのだという。
2011年11月26日 (土) | 編集 |
Kの大学生のころの話。

Kは夏休みになると、軽井沢方面の民宿やペンションを泊まりこみで手伝うアルバイトをしていた。夏の繁忙期には人手が必要になる。大学生のアルバイトが重宝されるのだ。

自由時間はすくないが、どうせ派手に遊ぶような金はない。むしあつい夏を避暑地ですごしながら、それなりの金を手に出来る、この仕事を気に入っていた。

全国から大学生が集まるので、同じ立場の者同士、すぐに仲よくなった。仕事が明けるとみんなで集まって飲んで騒ぐ。それは楽しかったという。

ある日、肝だめしをやることになった。まず、怪談をして気分を盛り上げてから現場に出かけた。

近くに湖がある。湖に行くまでの道は、並んで歩くのがやっとなほど狭く、林の間を縫っていくような小径だった。夜は人気もなく、途中に明かりがない真っ暗な道は相当に怖い。女の子は怯えて男にしがみつく。その辺の計算も、肝だめしをする目論見の一つにあっただろう。

Kは行列の最後尾について、ぶらぶら歩いていった。しばらくいくと、なにやら前の方がざわつき出した。後ろにいるKには、前の状況が分からない。

何があったのかな。注意を向けると、辺りに声が響いていることに気がついた。

「あはははははははははは」

女の笑い声であった。

一体なんだろう。

背伸びして前方を見すかすと、すでにだいぶ湖が近い。木々の間から湖面に反射した月明かりが見える。

その水際を、真っ白いガウンのようなものを着た女が走っている。笑い声は、そいつが発しているらしい。

真夜中の人気のない湖。高笑いしながら、水際を走る女。異様な光景である。

Kはとっさに、

(近くに精神病院でもあって、脱走した患者なのだろうか)

と思った。そんな雰囲気の笑い方だったという。

ひときわ、前の方のざわめきが大きくなったかと思うと、悲鳴をあげて元来た方向へ走り始めた。誰も彼もが血相を変えている。状況がよく分からないKは、たちまち取り残されそうになった。

見ると、あの白い女が、Kたちの方へ向きを変えて迫ってくるではないか。

女は目を見開き、大きく口を開けて喉を振り絞って笑っていた。満面に浮かんだ狂った笑み……。

ゾッと、背筋に悪寒が走った。

「バカ、何やってんだ、走れッ」

仲のよくなった男に言われて、はっと我に返った。慌てて皆の後を追う。

「なんだ、あれはッ」

「見ろ、足を見ろッ」

そう言われて、走りながら振り返る。女のガウンの裾がはだけて、風にはためいている。そこから伸びているはずの足が見えない。

女は、空中を飛んでいる。

人間じゃない!

Kは無我夢中で逃げた。

と、暗闇で足元がはっきりしない中、何かにつまづいた女の子がばったりと倒れた。

「待ってッ、助けてッ」

女の子の悲鳴が聞えたが、誰も立ち止まらない。助ける余裕はなかった。女は、すぐ後ろに迫っていた……。

女の子のことは心配だったが、暗いうちは、とてもじゃないが戻る気がしない。朝日が昇り、辺りが明るくなってから皆で様子を見に行ってみると、逃げ遅れた女の子は、道に倒れ伏したまま気絶していた。

急いで病院にかつぎ込んだが、彼女の意識はなかなか回復しなかった。夏休みが終わりに近づき、Kが帰る頃になっても、まだ寝たきりだった。

彼女とは何の関係もないKは、そのまま戻ってきたので、その後、どうなったのかは分からないままだという。

ペンションのオーナーに聞いてみたところ、あの道は、地元の人間は夜中は絶対に通らないのだ、と苦い顔で言った。何があったのかは、教えてくれなかったというが……。
2011年11月22日 (火) | 編集 |
引き続き、Kから聞いた話。

Kの写真仲間にAという男がいる。Aは、プロのカメラマンCさんの助手をしていた。機材を運んだり、撮影の準備をするアルバイトだ。

ある日、写真撮影の依頼が入り、CさんはAを伴って出かけた。現場に着いてみると、大きな屋敷を構えた農家である。相当な旧家だ。そこでは法事が営まれていた。

このような旧家になると、一族はかなりの人数になる。法事や結婚式など、特別な機会でないと親戚中が集まることは難しい。良い機会なので、記念写真を撮ろうというものらしかった。

準備が整い、一同に集合してもらった。

「はーい、撮ります」

カシャッ、とシャッターが下りた。

ところが、フィルムを巻き上げない。自動式だから、シャッターが下りると巻き上げ音がするはずなのに作動していない。カメラが壊れてしまった。原因は分からない。

別のカメラを用意して写した。そのカメラも同じ症状になった。シャッターは下りているはずなのに、巻き上げをしない。故障してしまうのだ。

Aは、

(珍しいことがあるものだ)

と、おもった。カメラが連続して壊れるなど、そうあることではない。

Cさんは何食わぬ顔で、

「申し訳ありません。どうも、この場所は光線の具合が良くないようです。あちらに移動していただけませんか」

と、一同を別の場所に移動させ、最後のカメラで撮影を行った。今度は何の問題もなく、撮影は終了した。

店に戻り、片づけをしながらAは、

「あれ、なんだったんですかね」

と、聞くとはなしに聞いてみた。Cさんは、少し考えていた後、こう答えたという。

「A君は、怖いの大丈夫か」

「はあ。ええ……まあ」

「君にまかせるから、あのフィルム現像してごらん」

どういうことか分からないながらも、Aは言われるまま暗室に入り、現像作業を始めた。問題のコマが出てきた。コマ全体に白い靄のようなものがかかっている。これは、なんだろう。

印画紙に画像を定着させる。すると……。

「おおおおっ」

Aは、うめいてしまった。

親戚一同が並んでいる。そこに覆い被さるように、白っぽく半透明の巨大な男の顔が写り込んでいる。新しいフィルムを使っている。こんな構図の写真は撮っていない。写っているはずがなかった。

「先生、これ……」

写真をCさんに見せると、Cさんは、やっぱりという表情で溜息をついた。何が写っているか、見る前から分かっていたようだったという。

写真に写り込んだ男が、何者なのかは分からない。長い歴史のある旧家には、いろいろなことがあっただろう。先祖に不幸な死に方をした人がいたかも知れないし、何か恨まれるようなことをしたかもしれない。それの念が残っていて、親戚一同が集まったこの日、現れたのかも知れないね。

と、この話を私にしてくれたKは言った。

そして、長くカメラマンをやっていると、写してしまった瞬間はなんとなく分かるようになるのだという。Kも、幾度も妙な写真を撮ってしまったことがあるそうだが、その写真を見せてもらう前に疎遠になってしまった。
2011年11月20日 (日) | 編集 |
N村さんの下宿屋に世話になっていた時代、Kという人物と親しくなった。

Kには、すこしばかりの霊感のようなものがあり、何度もいやな体験をしてきたという。私が怪談好きと知って意気投合し、いろいろな話を聞かせてくれた。

これから、彼から聞いた話をいくつか紹介したい。ただ、彼と会っていたのは、ずいぶん昔のことになる。話の記憶がいくぶんあやふやだが御容赦願いたい。

Kは写真に興味があり、大学でもその方面の勉強をしていた。有名な写真家の弟子になり、仲間と一緒に写真展を開いたこともある。私も何度か招待状を受け取ったことがある。

写真に深く関わったKらしく、写真にまつわる話を聞かせてくれた。

当時、大学生だったKは、生活費の足しに写真屋でアルバイトをしていた。

ある日、「この写真を見て欲しい」と、男性客が写真を持ち込んできた。現像がうまくいっていないクレームだろうか。Kは思ったが、そうではなかった。

写真には、男性客の奥さんとおぼしき女性が写っている。幸せそうな笑顔でカメラに向かって手を振っている。

問題は、その手だ。指が六本ある。

「これは何でしょうか。妻が気味悪がっているので見てもらえませんか」

手を振っているのだから、ブレて指が多いように見えている可能性もある。だが、輪郭ははっきりしている。これは、ブレではない。たしかに六本の指が写っているのだ。

では、なぜ指が六本に見えるのか。この写真が何を意味しているのか。そこまでは、Kには分からない。

「分かりません」と返してしまうことも出来たが、不安そうな表情の男性客を見ていると、それでは気の毒に思えた。Kは、写真を一週間お預かりできませんか、と提案した。

写真の解析をしてくれるところがあるのだという。フィルムのメーカーと聞いた記憶があるけれど、あやふやではっきりしない。誰が頼んでも引き受けてくれるのか、料金はいくらかといった細かい話も、聞かなかったので分からない。

「解析」といっても、写っているものの正体を調べてくれるわけではなく、色の解析をするのだそうだ。

写真に写っている六本の指。その中の五本は、女性の本当の指のはず。本当の指と、指のように見える、あるはずのない「何か」。

肉眼では、微妙な色合いの差が判別できなくても、機械的に精密に解析すれば、違いが明らかになるかも知れない。指なのか、そうでないのか分かれば良い。

「何か」が指ではないと分かれば、女性の肌の色に近いもの、例えば、後ろにいた他人の身体が、たまたま絶妙な角度で重なって写り込んだだけ、とでも考えて安心することができるのだから。

そして一週間後、結果が返ってきた。

五本の指と余計な一本は、全く同じ色であった。つまり、このデータを見る限り、一番自然な解釈は「指が多い」ということ……。

男性客が、結果を聞きにやってきた。

「どうでしたか」

「ご心配ありません。やはりブレが原因で、このように見えるだけだそうです」

「そうでしたか」

男性客は、ホッとした表情で写真を受け取り、何度も礼を言って帰っていった。

これでは、男性を騙したことになりはしないか。でも、正直に伝える必要はないと思うよ。と、Kは言った。

「指が多いとか、よくあることだから。何なのかは分からないし、気味は悪いけどね」
2011年11月18日 (金) | 編集 |
千葉県M市にあるY霊園。

タクシーを止める女の霊がでたり、夜には墓地の中で人魂が飛び交っているといった噂話を聞く。なかでも、十三区という区画で怪異が頻発するという。

ある日のこと。自分を含めて八人での肝試しをした。私と染井は、霊園の中央に車を止めて、六人がひとまわりして戻ってくるのを待っていた。

時刻は、午前三時すぎ。

夜間のY霊園は、正門付近に照明があるだけで、内部には明かりがないが、この日は満月に近い月が出て、懐中電灯を持たなくても歩くのに十分な光を投げかけてくれていた。反面、延々と続く墓石の列も照らし出されているので薄気味悪くもある。

私と染井は、ほとんど会話を交わさなかった。互いに、なんとなく物思いにふけりながら黙り込んでいた。

(まだかなあ)

ぼんやり待っていると眠くなるもので、何度もあくびが出る。

と、かすかに声が聞えてきた。まだ距離があるようで、何を喋ってるのかは聞きとれない。

ああ、もどってきたなあ、とおもった。

ゆっくりと音が近づいてくる。なにかが変だ。どうも、話し声という感じがしない。会話ならば、声が交互に、あるいは混じって聞えてくるはず。それなのに聞こえている声は、どうやら一人のもの。

う~~~う~~~う~~~

喋り声ではないし、唸るように力が入った感じでもない。こわくなってきた。

「ねえ、何か聞こえないかな」

染井に声をかけると、

「あ……なんの音でしょう」

と言う。染井にも聞こえているらしい。とすれば、私の空耳ではない。

う~~~う~~~う~~~

「近づいてきてる……よね」

「ええ、来てますね」

「来てるよ……」

「来ましたね……」

まっすぐ私たちに近づいてくる。間違いなく人間の声。男の声だ。

声が遠かった時は、「う~~」に聞こえていたが、そんな単純な発声ではなかった。

ウィィィウェェェェウィィィウゥゥウェィゥゥゥ……

独特の抑揚がついて、何かの呪文のようだ。お経とも、ちょっと違う。イスラム教のコーランの詠唱というのが雰囲気が近いかもしれない。

ウェェェウィィウゥゥゥゥウィィウゥゥゥゥゥ……

声は車のすぐそばに来た。

ウィィィウゥゥウェェェェェウゥゥ……

車の左後ろ側、そこに誰かがいる。助手席に座っていた私には、ほとんど真後ろから声が聞こえる。サイド・ミラーを覗いたが姿はない。ゆっくり振り返ったが、誰もいない。

ウィィウゥゥウェェウィィィィウゥゥゥゥ……

では、この声は一体なんだ。

声は、車の後ろにぴたりとついたまま離れない。恐ろしくてたまらなかったが、思い切って飛び降りた。

ところが、今の今まで車の真後ろから声がしていたというのに、外に出てみると意外にも声が遠い。

墓の列をぐるりと廻り、声の方向へ歩いてみる。おかしなことに、声がしていた辺りに行ってみると、今度は違う場所から聞こえる。

まるで追いかけっこをしているようだった。染井とさんざん探しまわったけれど、声は近づいたり遠のいたりするばかりで、正体がわからない。

皆が帰ってきた後も、声は続いていた。不思議なことに、八人のうち、声が聞こえているのは私と染井を含めて三人。あとの五人は全くの無音だと言う。

私は数えれば十回以上、Y霊園に肝試しに来ているが、不思議な声が聞こえたのは、この一度きり。似ている音が聞こえたことすらない。なんの音だったのか、いまだに分からないでいる。

そのあと、心霊サイトを運営するようになった私はY霊園も紹介しようと、写真撮影のために中に入った。なにも起こらなかったし、写真にも異変はない。

だが、帰り際に、染井がぼそりと呟いた。

「声のこと覚えてますか。最初に、あれが聞こえてきた方向って、十三区のあたりからですよ」
2011年11月18日 (金) | 編集 |
*UO*

パブリッシュ73導入。

シェイムダンジョンが賑わっているのと、いままでにないプロパティ強度のついたアイテムが出てくるようになって、アイテムをひとつひとつ吟味しながら拾っているので、ちょっぴり、なつかしいUOで遊んでいる気分。

が、30分足らず遊んだだけで「伝説級」の、いっぱいプロパ数ついたアイテムが出ちゃった。組み合わせが悪くてつかえないけど、そのうち、いい組み合わせが出そう。こまったゲームになったかもしれない。


*おしらせ*

(1)いんちき小説、更新しました。

(2)UOのギルド活動的な内容は、こっちのブログに書いてますん(あんまり書いてないけど)。どうぞ、よろしくです。

UO縦の会ブログ http://uotate.exblog.jp/
2011年11月17日 (木) | 編集 |
友人の女性、Hさんから聞いた話だ。

彼女は、今では、そういうものをあまり感じなくなったが、昔はいろいろな体験をしたという。

中校生のころ。自転車で、友達と楽しいおしゃべりをしながらの学校の帰り道。先を走っていた友達が、道に黒猫の死体があるのを気づかずに轢いてしまった。

「猫、轢いちゃったよ……」

「えっ、ウソっ」

Hさんの言葉に、友達は慌てて自転車を止めた。

いくら死んでいると言っても、気持ちのいいものではない。Hさんは、自分が轢いたのではなかったが、友達と一緒に心の中で「ごめんね」と謝りながら帰った。

その夜のこと。

寝ていたHさんの耳に、猫の鳴き声が聞こえてきた。Hさんは猫など飼っていない。

(猫?)

不思議に思ったHさんは、身体を起こそうとしたが動かない。金縛りだ。必死にもがいたが、金縛りは解けない。

猫が、とん、と布団の上に乗ってきた。うっ、と、息がつまる。

Hさんは、寝るときには明かりを全て消す習慣があるので、部屋は暗闇。それでも、不思議なことに猫の姿が見えたという。

黒猫だった。

(あっ、来ちゃった)

Hさんは思った。どうしようか迷ったが、身体が動かない。じっと耐えるしかなかった。

猫は、布団の上を顔の方に移動してくる。その一歩一歩に、たしかに重みを感じる。

猫は、にゃあにゃあ鳴きながらHさんの顔に身体を擦りよせてくる。猫の喉が、ごろごろと鳴っている。怒っている風ではなく、じゃれているように感じられたので、なんとなく安心して猫の好きにさせていた。

ふと猫の爪が目にとまった。なぜか爪が長く伸びている。黄色くて、みるからに固そうな爪だった。

そのうち、猫は布団の中に入ってきて、腕にじゃれついてきた。猫は遊んでいるつもりなのかもしれないが、爪が皮膚を引っ掻いて痛い。

(痛い、痛い)

声が出せない。身体も動かない。痛みを我慢しているうちに、Hさんは、いつしか眠っていたという。

朝、目覚めてみると、猫はいない。雨戸はきっちり閉まっている。外から入ってこられるはずがない。

やっぱり、あの時の猫だったのかなあ、とは思ったけれど、轢いたのは友達であって自分ではない。なぜ自分の所に出たのかは分からなかった。

学校で、猫を轢いた友人に、

「昨日の猫、私の所に来たよ」

と話した。友達は、簡単には信じようとしなかった。

「夢でも見たんじゃないの?」

「確かに来たよ」

「証拠の傷でも残ってれば信じるけどさ」

「そんなもの、あるわけないじゃん」

そう言いながら、制服の袖をまくり上げてみると、手首から肘にかけて、はっきりと引っ掻き傷が一本すーっと走っている。

友達は驚いたが、自分もびっくりした。友達が轢いたのは、猫の左前脚。Hさんの傷も左腕……。

怖くなって、放課後、友達ともう一度猫に謝りに行った。

ところが夜、また猫はやって来た。

猫は昨日と同じようにHさんにじゃれつき、布団の中に入ってきた。腕にまとわりついてきたが、昨日ほどの痛みを感じない。

猫の爪が、いくぶん短くなっていた。色も柔らかそうな白に変わっている。猫のするがままに任せているうちに、また、Hさんは寝入ってしまった。

朝、やはり部屋に猫の姿はなかった。

そして、三日目には、もう猫は現れなかった。

「怒ってる様子じゃなかったので、それほど恐怖は感じなかった。たまたま波長が合って、来てしまったのかも知れないけど」

そう、Hさんは言った。
2011年11月16日 (水) | 編集 |
そんなことがあってから、幾日もたたなかったある日。

仕事から帰ってくると、この下宿を紹介してくれた男で、昔からの友人Tが部屋にやってきた。

「お前、今帰ってきたの?」

そうだ、と応えると、Tは、おかしな表情をして黙ったあとで、こんなことを言った。

Tは仕事が休みで、のんびりと寝坊を決めこんでいた。昼過ぎに起きだして、私の部屋を覗きにきた。いたら、昼飯を一緒に食おうと誘おうとしたのだという。

「おーい、いるか」

「おーう」

廊下から声をかけると、中から声がかえってきた。

前にも書いたように、廊下と部屋の仕切は障子戸なので音は双方向に筒ぬけ。かろうじて中が見えないというだけの、最低限のプライバシーしか保たれない。

「入っていいかな」

返事がない。

「おい、どうした。入っていいか」

やはり返事がない。Tは迷ったが、はじめに返事があったのだからと障子戸を開けた(鍵すらついていないのだ)。

「なんだよ、返事くらいしてくれたっていいじゃないか」

そう言いながら、半身を部屋に入れて固まった。

てっきり私がいると思ったのに、部屋には明かりがついておらず、薄暗い。そりゃそうだ。私はその時刻、外で仕事をしていたのだから。

Tは、私がふざけて隠れているのかと押入を開けてみた。人が隠れられる場所など、そこにしかなかったが、もちろん誰もいない。

「確かに、男の声だったんだがなあ」

Tは何度も首をひねった。それでも、幽霊など信じないTは、

「俺の勘違いだと思うよ」

と、気のせいということで納得したらしい。

私は、そうね、と調子をあわせながらも、心に黒いもやが広がっていった。どうしたって、先日のトイレの一件が思い出される。どうせ信じないだろうし、自分でも確証があるわけではなかったから、Tには話していなかった。いまさら、その話を持ち出す気分になれず、黙っているしかなかった。

あの時の何者かはトイレに入ったのではなく、私の部屋に入ってきていたということだろうか?

しばらく、入居した頃の恐怖を思い出しながら暮らしたが、何も起こらないまま、私はこの下宿屋を出た。

現在、この建物は、あまりに古くなりすぎたために取り壊されて残っていない。

それにしても、ここでの出来事は本当のところ、偶然や勘違いが重なっただけなのか、それとも、やっぱり何かが棲んでいたのか、どちらなのだろうと、懐かしさとともに思いかえすことがある。
2011年11月15日 (火) | 編集 |
おなじく二十歳のころ、神奈川県厚木市で暮らしていた。

大家のN村さんは、かなり昔から下宿屋を営んできた。周囲にいくつか大学がある関係で、とても繁盛していたというが、建物が古くなりすぎて部屋が空くようになってしまった。N村さんは、学生に限らず社会人でもいいから入ってくれる人がいないかと店子を探していた。

友人Tが、ここを気に入って住み着いていた。ちょうど家を探していた私も、Tの紹介で転がりこんだのだった。

風呂、トイレ、台所が共同だが、八畳間で一万八千円という破格に安い家賃。ただし、家は汚いからな、とTに念押しされていたから覚悟していたが、想像を絶するひどさだった。

下宿屋として使われてきた建物は、築二十年や三十年のシロモノではない。おそらく五十年はたっているだろう。夜で明かりがついていなければ、廃屋だと言われても納得してしまいそうな、お化け屋敷一歩手前の状態。共用の風呂とトイレは、汚れ放題に汚れていた。

一昔前の苦学生ならいざ知らず、いくら家賃が安いとはいえ、今どき、こんな場所に住もうとする物好きは少ないはずだ。

部屋も、すすけて薄暗い。初日に時間をかけて掃除をしたが、畳も柱も、いくら拭いてもきれいにならず、バケツの水は何杯でも真っ黒になる。途中で気力が尽きてしまった。

夜は無性に恐ろしかった。長い年月の間には一人や二人、非業の死を遂げた奴もいるだろう。この部屋で自殺があったかもしれない。今にも何かが出てきそうな気がする。

しかし、幸いにして変な事は起こらなかった。そうするうちに怯える心は落ち着き、ここでの暮らしにも馴染んでいった。友人には「俺の下宿、オンボロで怖いんだぜ。ありゃ、そのうち出るな」と冗談を言ったが、普段はちっとも気にしてはいなかった。

夜中の一時をすぎた頃だった。そろそろ寝るかと思いながら、寝ころんでテレビを見ていた。

ギシ……ギシ……

廊下を歩いてくる足音。

建物は古い農家の作りで、外に面して廊下がある。一度も張り替えたことがないであろう廊下の床板は、どんなに足音を忍ばせても、必ず軋んで音をたてる。

私の部屋は廊下の突き当たりで、トイレの隣にある。歩いてくる人間の用事は、私の部屋に遊びに来るか、トイレに入るかのどちらか。足音は通りすぎて行った。

(トイレか)

廊下と部屋の仕切は障子戸で、防音の効果はまったくない。足音の主が、ゆっくりと足を運んでいる様子が、よく分かった。遅い時刻だから気を使っているのだろう。

バシーン!

トイレのドアが凄まじい勢いで開いた。ドアが壁に叩きつけられた衝撃で、障子戸がぐらぐら揺れる。尋常ではない力の入れ具合だった。

私は、飛び上がるほど驚いた。

それまでが、いかにも音をださないように心がけている様子の足音だったから、そんなドアの開け方をすると思わなかった。まったくの不意打ちだった。

(いったい誰だろう)

どういうヤツか顔をみてやろうと、すぐ障子を開けられるようにしながら待ったが、いつまでたっても出てくる気配がない。そのとき初めて「おかしい」と気がついた。

音がない。

この建物は壁も薄く、トイレの中の音は、じょぼじょぼいう水音から咳払いまで筒ぬけになる。いつしか慣れて、気にも止めないようになっていたが、改めて注意をむけると、さっきから何の音もしていない。人がいる気配がない。

我慢しきれなくなって、おそるおそる障子戸を開けた。

目の前、ほんの二メートルの位置にトイレがある。ドアは開きっぱなしで、明かりはついていない。

そんなはずはなかった。歩いてきた足音は、たしかに聞こえた。障子戸が揺れるほどの勢いでドアが開いた。そして、帰っていく足音は聞いていない。

たまらなく怖くなり、その日は布団を頭からかぶって寝た。
2011年11月14日 (月) | 編集 |
二十歳のころ、空気銃を使う戦争ごっこのような遊び、サバイバルゲームに夢中になっていた。

仲間は、昼間はいそがしい人間が多く、夜にあつまることが多かった。その日も夜のゲームで、集まったのは十人。五人ずつに組分けをする。

私はリーダーの染井と同じチームになった。

染井が「左右二手に分かれて、敵を挟み撃ちにする」と作戦を言う。私は染井と二人で右手側を受け持った。左手側の三人に「じゃ、頑張って」と声をかけ、分かれて走りだす。

私たちが進む方向は「本丸跡」があり、公園の中では一段高くなっている。ここに陣取り、敵の出方に応じて動きを変えるのがセオリーだが、挟み撃ちにする作戦なので本丸跡広場で立ち止まらず進む。

そのはずが、本丸跡広場に入ったあたりで、染井の足が止まった。前方の暗闇を指して、だれかがいるという。

それはない。本丸跡は私たちのスタート位置からすぐ近い。敵が全力で走ってきたなら足音が響くが、音は聞こえなかった。静かに移動して、私たちより先に到着し、気配を消すなど絶対に無理だ。

それでも染井は、間違いなく誰かが広場の角、鉄柵の外側に潜んでいると言い張った。

そこは人が立てるような場所ではない。鉄柵の外は崖で、足をすべらせたら十メートルは転げ落ちるような急斜面になっている。そのうえ、公園の中で、もっとも闇が深い一画で、足もとすらおぼつかない。

こんな危険な場所で、崖側に身をおいて片手で鉄柵をつかんで身体を支え、もう片手に銃を持って待ちかまえている奴などいるだろうか?

気のせいだよ。声をかけたが、染井は真剣だ。

どうしようかと思案しているうちに、音がすることに気がついた。染井の言う場所からではない。私のすぐ右横。それも、やはり鉄柵の外。

ザザー、ザザザザザー。

斜面を、すべり落ちていく音だ。やっぱり染井の言うとおりに誰かが潜んでいて、誤って滑落したのだろうか。

事故かもしれない。立ち上がろうとして、思いとどまった。ザザーと、また落ちていく。音は、一、二分おきに、何度も繰り返す。

聞き耳をたてていると、ザーッとすべり落ちる前に「ドスッ」と、木の枝にしては重い音がしている。猫や犬くらいの重さがある音に聞こえるのだが、いったいなんだろう。気味が悪い。

我慢しきれなくなった染井が「誰かが潜んでいる場所」に向かって撃ち始めた。軽くて甲高い発射音が響く。BB弾が木の幹や葉に当たる音に混じって、鉄柵に当たるカキン、カキンという金属音がしている。

誰かいるならば、これだけ撃ちこめば撃ちかえしてくるか、弾をよけるために身体を動かすものだ。反応は何もない。これは絶対に誰もいない。それでも染井は警戒を解かない。

だが、今から動くのも得策ではなかった。ゲームが始まってから時間がたっている。敵が近くにきていれば、射撃音を聞かれている可能性がある。

ほどなく、前方からかすかな話し声が聞こえてきた。やはり来た。染井も、そちらに視線を向けている。よし。

敵は小声で、ささやきあっている。内容は聞きとれないが、話し声がするということは人数は複数。近距離での撃ち合いになるかもしれない。一瞬、身ぶるいが起こった。この緊張感がサバゲの醍醐味だ。

声が近づいてくる。階段を登ってきた。敵の取るルートは二つ。一つは、本丸跡広場に直接入ってくる道。私たちの正面から出てくる。もう一つは、本丸跡広場の周囲に土手状になっている道。この場合、私たちから見て左側に現れる。

声は、ルートの分かれ道、本丸跡広場の入り口に来て止まった。

こちらを窺っているのだろうか。敵の姿は全く見えない。何人だろう。どう来る。引き金にかけた指に力がはいる。

サクッ、サクッ、と落ち葉を踏む足音が聞えた。ついに動き出した。

音は……左側に動いている。土手道を来るつもりらしい。土手を来られると、地面に伏せている私たちは、上から覗かれるかたちになるから分が悪い。見つかる前に撃たなければならない。

銃の狙いを定めようとして、とまどった。音の場所に敵の姿がない。足音は私たちの真横を通っていくというのに、なにも見えないのである。

土手までの距離は、ほんの三、四メートル。六畳間の長い方の幅と同じくらい。いくら暗いといっても完全な闇ではない。表情は分からなくても、この距離で人間の影が見えないはずがない。現に、土手の向こうにある木の枝は、影となって見えている。

そのまま、足音だけが私たちの目の前を通りすぎて背後にまわりこみ、手を伸ばせば届くほどの距離にある茂みに入って消えた。そんなバカな。

真後ろを取られてしまった。足音は一人だったから、前方にも敵が残っているはず。はさみ撃ちにする作戦どころか、自分たちがはさまれていては世話はない。

絶体絶命――。

ところが、それきり背後の気配は消えてしまった。前にいるはずの敵も動く様子がない。

私は思い切って後ろを振り向いて突撃した。撃たれるのは覚悟の上である。背後をとられた時点で負けなのだから、相打ちに持ちこめたら、もうけものだ。

気負いながら茂みの中へ突っ込んで、拍子抜けした。誰もいない。

地面には落ち葉と小枝が散らばって、少しでも動くと音をたてるというのに、いつの間に移動したのだろう。

気がつけば「ドス、ザザザザー」と、奇妙な滑落音が相変わらず聞こえている。見に行ったが何も落ちてこない。見ている間は音がしない。いったい、これはなんだろう?

染井が、さんざん気にしてた場所へ行く。斜面を覗きこんだが、誰もいない。

「おおい」

念のため、崖下の暗闇に向かって声をかける。やはり返事はない。

本丸跡広場の入り口へ行く。さっきは、たしかに、このあたりから話し声が聞こえた。

「ねえ、誰かいるかな。ちょっとゲーム中止。聞きたいことがあるんだけど」

いくどか呼びかけるが返事はない。誰もいない。まさか、最初から最後まで?

「帰ろう」

今の今まで、誰かを警戒して地面に伏せていた染井も立ち上がった。

休憩場所に戻ると、私と染井以外の全員がそこにいた。飲み物や煙草を楽しんで談笑しているところをみると、ずいぶん前に戻っていたようだ。

相手チームは五人がまとまって行動して、こちらチームの三人を簡単に倒したらしい。私と染井を探したが、見つからないので帰ってきたのだという。

誰か、本丸跡広場へ来たか訊くと「そっちは探さなかったなあ」との答え。ということは、私と染井だけが中に残って、いるはずのない誰かの気配と対峙していたことになる。

なんだよそれ、と思ったが、気のせいかもしれない。皆を脅かすのも悪いから誰にも言わなかった。

ところが、次のゲームで時間になっても戻ってこない奴が出てきた。そのうち帰ってくるだろうと放っておいたら、いくら待っても戻ってこない。何人かが探しに行った。

ようやく戻ってきた彼は、ある場所で敵がいると思い、ずっと弾を撃ち込んでいたと言う。その場所は本丸跡広場の角、人間が立つ場所などない鉄柵の奥。染井が引っかかっていたのと、まったく同じ場所だった。

「柵の外に誰かがいると思ってた」

と、言うことまで染井と一致しているのが気味が悪い。といって、はっきり何かを見た者がいるわけでもない。そこは特別に暗い場所だから、恐怖と不安で想像力が働いてしまうのかもしれない。それでも、一人の時に、あの場所に近づくのはやめようと思った。



サバゲの日からしばらくたって、私は友人ふたりと、真夜中の城址公園にやってきた。あとで話を聞けば、皆もそれぞれ「なんだかヘンだなあ」とおもう体験をしていたことがわかり、「あそこ幽霊でるんじゃないの?」などと話がもりあがっていた。

ちょっと、たしかめに行こうか、という軽いノリでやってきたのである。

ところが、あの日は、ひっきりなしに音がしていたというのに、この日はまったくの無音。風の吹き方に、それほど違いがあったように思えないのだが、なにも落ちてこない。

私たちは、この場所で何十回となくサバゲをしているが、妙な滑落音を聞いたのは、結局、一度きりだった。まったく不思議だ。

手持ち無沙汰なまま、本丸跡広場でうろうろしている時、公園の入口の方向で、コーン、と金属音が響いた。ジュースの空き缶をアスファルトに落とした音のように聞こえた。時計を見ると午前三時。

急いで見に行ったが、誰もいない。自動販売機があるので、夜ふかしな近所の人がジュースでも買いに来たのだろうか。

「きっと、そうだよね」

友人が言ったのと、ほとんど同じタイミングだった。

アハハハハハハハハハハハハ

道路をはさんで向い側にある高校から、若い女のすさまじく甲高い笑いが響いた。真夜中の高校に誰かいる……?

ぞっと全身が総毛だつ。

どこかの女の子が、こっそりと忍び込んで、友だちとジュースでも飲みながら、おしゃべりしているのだろう。さきほどの金属音も彼女たちのたてた音だ。きっと、そうに違いない。確かめる勇気など、あろうはずがない。

この高校からは、夜になると時々、若い女の絶叫が聞こえるという噂があるのを聞いたのは、ずいぶん後になってからだったが……。
2011年11月14日 (月) | 編集 |
ぼくは以前、心霊的なサイトを運営してました。

いわゆる心霊スポットへの突撃取材のようなことをしてましたが、いろいろあって、サイトはすでに閉鎖しました。

見聞きした体験談のようなものだけ、ここに回収して「怪」カテゴリにおいておきます。

暇つぶしになれば幸いですが、眉に唾つけながら読んでくださるようにお願いします。
2011年11月08日 (火) | 編集 |
新潮文庫の『Yonda? CLUB』から、ブックカバーが届きました。締め切り当日に、あわてて出したのだけど無事に受理されていたようです。よかったよかった。

まだ、マグカップが届いてないので、楽しみに心待ち。

あわせて、ブックカバー3つ(白が2つに、黒が1つ)と、マグカップ4つ、もらうことになる予定です。応募券100冊分集めたのん。いっぱい読んで、がんばりました! 古本屋で、応募券を切り取ってない本を選んで買ったりもしました、がんばりました!

そして『Yonda? CLUB』は、9月でリニューアルされています。

こんな内容です。

新・Yonda? CLUB → http://www.shinchosha.co.jp/bunko/yondaclub/

ええええええ? どうしちゃったのかしら、新潮文庫!

持ち手が、ふたつもあるマグカップなんか、邪魔なだけだとおもうのですけども、重宝がる人がいるんだろうかな。

ブックカバーも、ジッパーの使い勝手がどうなのか、判断にくるしみます。

しかし、なにより、Yonda?くん陶器がこええええええ、すげええええ、たまんねええええ! 有名な陶芸作家の方がつくったようですが、お子さんいる家庭だと子供が泣きだすのじゃないかしら。

うわああああ、ヨンダくん、どうしちゃったのかなー、本ばっかり読んでて頭でっかちになっちゃって「どうして人生ってこんなに苦しいの?」とアンニュイなそぶりでつぶやていたら、自意識過剰をこじらせて、禅の道に興味もって「正法眼蔵」読み始めたはいいけど、あまりの文量に挫折して、いっそ座禅会に参加しようかと迷いながら、それもこわくて野狐禅に手をだしてるのかな、なんて想像しています。

あっ、しまった、また、まるきり自分のことを投影しちゃった!

それでも、ずっと見ていたら慣れてきたのか、欲しくなってきたよね。部屋のたれぱんだコレクションの中に、こっそりまぎれこませておくと、アクセントになっていいかもしれない。

よし、今年は応募券100枚の、この『Yonda?くん陶器』を狙ってみることにします!

なお、あたくしの過去において、こういう興味本位の決断は、「選んでよかった」とおもえたためしがありません。おういえ。
2011年11月02日 (水) | 編集 |
かつて存在したサバゲチーム『バリサルダ』のリーダー染井は、気に入らないことを提案されて拒否したいときに、

「じゃあ、あなたが責任とってくれるんですか」

という言い方を、よくした。

サバゲのとき、染井は自分の家の近所を集合場所にしたがった。しかし、会場は染井の家と離れた場所で、わざわざ染井の家に行くと具合が悪い人がいる。

その一人がウリくんで、位置関係は、サバゲ会場を間にはさんで車で西に10分ほどの距離にウリくんの家があり、東に30分のところに染井の家がある。

図にすると、こう。

ウリ家 ←10分→ 会場 ←30分→ 染井家

ウリくんは、現地集合なら10分の所要時間ですむのに、なぜ、会場を目の前にとおりすぎて、わざわざ染井の家まで行かなければならないのか? 時間とガス代の無駄だから「現地集合でいいよね?」と、ウリくんは言った。

サバゲチームの幹事的な連絡調整係は、あたくし。ウリくんの希望はもっともだと思ったから、染井に「ほかにも何人か、現地集合させるね」と伝えた。

が、染井は怒り狂って拒絶。

「だめです。わたしがリーダーなんですよ。わたしが管理しなきゃいけないじゃないですか。だったら、わたしの家の近くに集まったほうが管理できるじゃないですか、どう考えても」

「でも、それやると、ウリ君は1時間かかるのよ。いいじゃん現地で」

「絶対に、いやです。じゃあ、現地集合にして問題がおきたら、あなたが責任とってくれるんですかッ!」

「ふーん。てーことは、きみんちの近く集合にするときは、きみが責任とるってことだよね。それじゃ手始めに、いまの理屈を自分でウリくんに電話して説明してもらえる?」

そう切り返すと、染井は無言になった。電話口から、はあはあものすごい呼吸音が聞こえるのよね。いつもの痙攣おこしてるのだと思うのだけど。

「じゃあ、てめえが責任とるんだな! どうなるか楽しみだな! 死ね!」

ガチャン! と受話器たたきつけられて電話が切れた。

ほかにも、飲み会の幹事を頼まれると、面倒事を引き受けたくない染井は、

「わたしに決めさせると、真冬の河原で冷えたビール準備して焼肉パーティーとかにしますよ。それでいいんですか。責任とってもらえるんですか。いやでしょう。いやなら、あなたが働いてください。それが、あなたのためです」

と言うし、心霊スポットいきたいなら選んでよといえば、ネットであれこれ調べる面倒をきらう染井は、

「わたしに決めさせると、一週間車に泊まりこみで移動して、東日本一周して心霊スポットめぐるとかにしますよ。それでいいんですか。責任とってもらえるんですか。いやでしょう。いやなら、あなたが働いてください。それが、あなたのためです」

と言う。

この例でわかるのは、他人を批判・攻撃するときに使う理屈というのは、自分にとってクリティカルなものであることが多い。

染井自身、責任を負わされることが大嫌いで、楽な立ち位置から結果だけを享受したい人間だから、他人にむかっても「責任とれるんですか」と言う。

これはごく自然な心理状態で、自分が「それ」に敏感であるからこそ、向けられれば凶器のような鋭さで痛みを感じるし、同じ効果が相手にもあると(無意識に)信じて使う。

近親憎悪というのも同じ機構で、ハゲは他人のハゲが、デブは他人の体型が、金に細かいやつは他人の金遣いがひっかかり、恋の駆け引きが好きならば、恋人のなんでもない仕草にいちいち一喜一憂する。

結局、自分自身の幻影を相手に映しだして、勝手に悶え苦しんでいるにすぎない。

ひるがえって、自分自身のことを言えば、染井の理屈をあげつらって、しょうもない文章こねまわしているのは、自分自身が理屈っぽいから、他人の理屈に敏感だということになる。ああん。うぜー、我ながら、うぜええええ。

ということで、このブログにて、さんざん変態的な痴態をさらしているのは、変態だから……というよりも、異常なまでに羞恥心がつよいからなのである。

あたくしは、そもそもが激烈な内気で、強度の人見知りであり、コミュニケーション能力にたいへんな問題をかかえている。この年になっても、他人と会食するのが恥ずかしい。男相手でも緊張するし、女子ならなおさらで、向かいあわせになろうものなら火をふいたように顔が赤くなる。

UOでは、うさこはんに「メールアドレスおしえて」とか「電話番号おしえて」てなことを、よく言うのだが、本当は教えられても困るのが正直なところで、怯えて萎縮しまい、何もできないまま終わる。

じつは、男同士の猥談でも「ち☓こ」に類した言葉を使ったことないの。ようやく「屁」を人前で言えるようになったのが、ここ数年のことで、「ま」の字のほうなんか、とんでもねえ、冗談でも絶対に言えないわ言えないわ。

さて、こういう男の性癖はどうなのかというと「女子にはずかしいこと言わせて、大はあはあする」のである。言葉攻めというやつで、おのれが、そこに敏感であるから、相手に投影しようとする。

とある女子といい雰囲気になって、けしからんマッサージを施していたときのこと。

「どう、きもちいいかな?」

「……うん」

女子が羞じらいの表情で頷いてくれようものなら、おじさんの富士山は大噴火して溶岩が1000億光年の彼方まで吹き上がり、富士の樹海からは、おびただしい数の全身白塗りの男たちが飛び出してきて2億4000万の瞳からレーザービームの視線をきらめかせて大地を疾駆し、ウホホッホホホッオホホーーーーッと奇声をあげながら断崖絶壁から飛び降りたと思うと鮮やかなパラシュートを大空に咲かせて見事に着地、モントゴメリー元帥が指揮する英第21軍集団の到着まで橋を死守すべく戦闘配置につくのであるが、うかつなことに橋の付近には独軍のSS装甲軍団が再編成のために休養していて、独B軍集団司令官モーデル元帥は「あぶなかったわい」とつぶやいて、ただちに、第9SS装甲師団『ホーエンシュタウフェン』、第10SS装甲師団『フルンツベルグ』を反撃に投入、橋をめぐって激戦が繰りひろげられた。うおおお、マーケットガーデン。

てな具合の妄想が脳内極彩色で展開され、動きがとまったあたくしに、女子は不審顔を見せた。我に返る、あたくし。いかんいかん。

「どこがきもちいいのか、いってごらん……?」

「え……、どこって……」

「あそこの名前……」

「あそこ……?」

「えっと、うん、あの、ほら、あそこ、ね?」

「え……どこ……?」

「えっ……。あの……、あそこ」

「わかんない」

この女子は、とぼけているのか、ほんとうに通じてないのか、丸顔ほっぺが大変にラヴリィ。この、やわらかそうな唇から、やらちい言葉がでてくるのを、ぜひ聞きたいものだと、灼けるような欲望が高速で右へ右へと旋回しながら暴れていた。

「いや、あの、ほら、だから、その……、あれだ」

「あれって……?」

「……あそこ……」

「どこ……」

「あああん、おじさん言えない、そんな恥ずかしいこと言えないわー! へんたい! すけべ! ばかばかばああああああああっ、ばかあああああっ」

あたくしは女子に恥ずかしいこと言わせようとして、その部分の名前を考えている自分のほうが恥ずかしくなり、羞恥心が決壊して、相手をほったからしにして、はげしく身悶えしたのであった。

「意味分かんないけど、なんか、きもちわるいから帰ってくれる?」

「ぎゃあ!」

(実話)