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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2011年06月08日 (水) | 編集 |
「トモなんか、きらい!」

背後から、キンキンと耳に刺さるような甲高い女の叫び声がひびいた。夕方には、まだ少し時間があるころの、マクドナルドでのこと。

「もう、きらい、バカ、きらい!」

6人のテーブル。女が4人と、男が2人。女は席から立ちあがり、むかいの男にむかって激しく罵声をあびせかけていた。こいつがトモであろう。トモは謝るわけでもなく、居直るわけでもなく、曖昧な笑顔をうかべて女の顔を見上げている。

「ばかばかばかばか!」

トモの、どっちつかずの態度が、怒りの炎に油をそそぐのであろう。女はどんどんヒートアップしていき、飲み物を投げつけそうになった。あわてて隣の席の女が止めにはいる。

「ハルナ、やめなさい」

「ばかばか!」

ハルナと呼ばれた女は、身体をおさえられながらも大暴れして、トモをののしり続け、こう言った。

「もう、トモとは、わかれる!」

それを聞いたトモが、くしゅっと顔をゆがませて、しくしくと泣き出したのである。

「トモとわかれて、リュウにする!」

ハルナは、そう宣言してリュウを見た。ところが、リュウはふたりの争いなど、どこ吹く風といった態度で本を読みふけっている。まるで頓着していないのである。乙女心を傷つけられたハルナは、むっとして、余計に機嫌が悪くなった。

「わかれて! いますぐ、わかれて!」

トモはこらえきれずに、うわーん、うわーんと声をだして大泣きをはじめた。

「あらあら、トモくん、あらあら、謝りなさい、ハルちゃんに謝りなさい」

そう言って、トモの背中をやさしくなでるのは、お母さんであろう。トモくんは、泣く合間に切れ切れに「ごめん、な、さい」とかろうじて声を出すものの、ハルナちゃんは許さない。

「やだ! わかれる! ぜったい、わかれるー!」

ハルナちゃん、トモくん、リュウくんはともに5歳くらい。きっと幼稚園のお友だち。お母さんに連れられて、マクドナルドにおやつに来たのだが、とんだ別れ話がもちあがってしまったと見える。

きゃあ、5歳でおつきあいだなんて、おじさん許さないわ、許さないわ、おじさんが女性とおつきあいしたのは20歳すぎてからだわ。

なお、恋のかけひきをくりひろげるハルナちゃんとトモくんを尻目に、リュウくんは買ってもらったらしい絵本に夢中。キミは、なかなか見所がある。まるで幼い頃の、あたくしのよう。だけど、あんまり周囲と自分の世界を切り離してると、モテ度0で、さみしい人生を送ることになるから、このことだけは留意しておきたまえ。

トモくんのお母さんは、しきりに「謝りなさい」とトモくんを促す。そのとおりである。怒り狂った女の子をなだめるのは、ひたすら謝りたおすしかないのである。

トモくん、謝りなさい、謝りなさい、わけもわからず謝りなさい。すべて自分が悪かったと言いなさい。土下座はしてはいけない。卑屈になってはいけない。だけど、真摯に、いや真摯なフリをして、徹底的に謝りなさい。おじさんは、この年になって、やっと分かったけど、もう手遅れよ。

「ばか」だの、「きらい」だの、「わかれる」だの、ハルナちゃんが発する言葉が、あたくしの心にいちいち痛い。あたくしも、さんざん浴びせかけられたぜ。20歳すぎてからの、それらの言葉は、ほんとうに心をえぐりとっていくの。傷口から大切ななにかが奔出してゆくの。

ああああああああ。まったく関係ないのに、あらそいの余波をくらい、どんより落ちこむ謎のおじさん一匹。

それにしても、子どもは恐ろしいね。ハルナちゃんは、どこからそういう言葉を覚えてくるのだろうね。……あれ、もしかして、ハルナちゃんのお母さんが、旦那に叩きつけてる言葉じゃないかしら?

「ろくでなし、でくのぼう、甲斐性なし、今すぐ別れて! 離婚してーーーーーーーーー!」

毎晩のように、くりかえされる喧嘩で、ハルナちゃんも自然と覚えてしまったのではなかろーか? なぜなら、ハルナちゃんのお母さんが、陰のある、えもいわれぬ表情をしているから。おお、きっとあたくしのにらんだとおりに違いない。

……と、こういう根拠のない妄想で、このブログは成り立っているのである。おういえ。

切なくなってしまった、あたくし。このやるせない心をまぎらわすには、どうしたらよかろうか?

タイミングよく、IRCに、うさこはんがログインしてきた。おおお、わが癒しの女神、うさこはんよ! さっそくに家に呼びつけた。

「うさこはん、大切な話があります」

「え……」

おびえた表情のうさこはん。

「じつは」

「う……」

「騎士団やめました。騎士団キャラを、弓キャラに変えるから、装備つくってください!」

「……どうせ長続きするはずないと思っていました」

「あたくしを分かっている。さすがです」

「おういえ」

「おういえ」

ということで、キャラの構成を大幅に見直し中。騎士団は過去の思い出となって流れ去った。次は、野伏の「染井党」を始めることにする。

「どうせ、またすぐに飽きるから……」

うさこはんがつぶやいた。あたくしの最大の理解者うさこはん。ラヴである。

「ぜったいに、いや」

そっちのつぶやきは、聞かなかったことにするわ。

「おういえ」

「おういえ」
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