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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2009年07月28日 (火) | 編集 |
このごろ、ほとんどUOにログインしていない。その分、本を読む時間がぐっと増えた。わあい、読書って楽しいな。

宮部みゆきを読んでいる。「ぼんくら」「日暮らし」「あかんべえ」「長い長い殺人」。

この作家は本当にすごい。伏線がきちんと、おさまるべきところにおさまっていく。

冒頭で主人公と少しだけふれあった人物が、物語の終幕に決定的な役割を担って、また出てくる。それがちっとも不自然でなく、物語への関わり方が、こうでなければならない必然性と説得力を持っている。

なんという繊細で緻密な計算で物語を成り立せているのだろうか。読んでいて鳥肌がたつことがある。

広げた大風呂敷を、ちっともたたないまま放り出す作家は、いくらでもいる。謎が謎のまま残されている話は多い。

でも、オチをつけるつもりのない謎をちりばめるのは、作り手にとってこれほど楽な話はない。思わせぶりにハッタリかますだけかまして、ぽいと投げ捨てればいいのだから。

だからあたくしは、「謎は解明されないまま残った」てな話を聞くと、むかっ腹がたつ。もったいぶって登場させておいて放ったらかした小道具の残骸が散らばってます、というだけのこと。ちっとも面白くないし、有り難くもない。

「残された謎」から、作り手の真意をあれこれ忖度するなんぞ、無駄のきわみであることを知れ。そんなものは、「ハナから無い」のである。つまらぬ手妻に目をくらまされてはならぬ。

そんなこと言うお前はナニサマだって? たわけ、オレサマに決まっておろうが。ここまで、おもいっきり余談なんだけどもね。

ということで本題。

あたくし、喫茶店で読書する派である。休日には何冊も本を抱え、居心地のいい店を求めて徘徊する。仕事帰りも、お茶飲みながら小一時間本を読んでから帰宅することが多い。

ある店での出来事。

隣の席にすわった、50がらみのおっさん。注文を聞きに来た、まだ若い女性店員さんに、こう言うの。

「冷たいホットコーヒー」

なんですって? 思わず耳をそばだててしまう。

「なんか甘いものあるかな?」
「はい、日替わりケーキがございます」
「ふうん、今日は何?」
「イチゴのショートケーキでございます」
「ああ、いいね、おいしそうだね。じゃあ、BLTサンドで」

うわあー、やるなあ。気の弱いあたくしなんぞにはできない荒業だ。

しかし、店員さんもプロだった。顔色一つ変えず、「かしこまりました」と下がっていった。ここは、値段が少し高めだが、店員の態度も店の雰囲気も落ち着いているから、よく来ている喫茶店。

冷たいホットコーヒーと注文されて、何を出すのだろう。興味津々に待っていたら、出てきたのはアイスコーヒー。無難な解釈であろう。あたくしも、そう思う。

ところが、おっさんはグラスをじっと見つめて動かない。なにかご不満の様子。あら、「冷たいホットコーヒー」ってのは、アイスコーヒーのことじゃなかったのかな。

店員のおねーさんに厳しいことを言えば、「冷たいホットコーヒー」なんちゅー、わけわかんない注文を受けたら、ちゃんと確認して、トラブルを防止すべきだったであろう。おっさんの頭がおかしいのだから、気の毒だとは思うけども。

不満顔で店員を呼びつけたおっさん。グラスを指差して、
「ねえ、おかしくない?」
と、乱暴に言う。

女性店員は少しうろたえて、「申し訳ありません、ご注文は別の品でしたか」と聞く。

「分かんないの?」
「申し訳ありません……」
「俺、頼んだの、Sサイズだよね?」
「はい……」
「よく見てよ。少なくない?」
「は……?」

おっさんは椅子にふんぞり返って、鼻息が荒い。

「なんで、こんなに少ないの? 俺、喉渇いてるの。もうちょっとさ、気を利かせて、たっぷり入れてこいよ。Sサイズの客だからってバカにしてない?」

うわー、なにその言い草。

あたくし、笑いを表現する「w」が嫌いで、普段は使わないようにしてるのだが、こういうときだけは、「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」と、連打したくなるね。

女性店員も腹に据えかねたのであろう。いえ、それが規定の量でございますと、わずかに語気を強めた。ああ、客商売は辛いなあ。こんな頭おかしくて脂ぎった、くっさいおっさん相手にして時給780円だもんね。やってられんよね。

「なにそれ? なんなの、この店?」

勢いづいたおっさんは、あぶられたスルメのように反り返っている。でっぷり肥えた腹がどーんと突き出されて見苦しいことこの上ない。おっさんという同じ種類の生き物として、とても申し訳ない気分になる。生きててすみません。

「お客様、申し訳ありませんが、それが当店のSサイズでございます」
「へえ、そうなんだ」

おっさんの倣岸さは、どこから出てくるのか。普段、家で女房の尻に敷かれている鬱憤を今ここで晴らそうとでもいうのか。理解に苦しむ。このおっさんを無礼打ちして、あたくしも腹を切るべきであろうか。

そこに、横合いからすっと人影が割り込んできた。店長である。口ひげの具合と柔らかな物腰が稲川淳二に似た雰囲気の、絵に描いたような喫茶店のマスターだ。

「気が利きませんで申し訳ない。どうぞ、召し上がってください」

アイスコーヒーのLサイズを、テーブルに置いた。このサービス、あたくしには強烈な皮肉に受け取れる。だが、世の中には面の皮の厚い人間はいくらでもいる。

おっさんは、一瞬、おっ、と言わんばかりの嬉しそうな表情を浮かべた。うわあ、なんていやらしいやつ! 人類の敵!

「そういうつもりじゃなかったんだけどなあ。まあ分かってくれればいいよ。今度から気をつけてみてよ」

頭おかしい人がいるから注意せよという意味では、正しい物言いと言えなくもない。

しばらくして、店員さんの様子をこっそり窺い見ると、表情をかすかにこわばらせた女性店員に、マスターがなにやら声をかけていた。逆らっちゃいけないよ、うまくあしらいなさい、とでも忠告しているのだろうか。

おねーさん、がんばってください。応援してます。ちょっぴり、よこしまな下心もありますけど。うわー、オレサマは女性の敵!

と、こういう脈絡のない話の筋を、まとめる気のない大風呂敷広げっぱなしと呼ぶのである。手抜きだという理由を、ご理解いただけようか。いえーい。
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