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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2007年07月07日 (土) | 編集 |
気づかれないように、彼女の方をまじまじと見ないように注意しつつ、そろり、そろりと忍び足で近づく。

目標との距離、10メートル。

ギリギリ視界の端に写るくらいの向きに視線を固定。偵察を行う。長い髪に、赤いリボン。ジーパンにスニーカー。少女漫画を読んでいるらしいが、タイトルまでは分からない。

漫画がよほどに面白いのか、夢中になって頁をめくっている。没入していて、周囲は無警戒のよう。好都合だわ。くふ。

さらなる接近を図ろうとしたところで、小学生らしき女の子が、すたすた歩いて漫画のコーナーにやってきた。本を探す素振りもなく一直線に、わたくしが狙った女性の真横に立った。目当ての本の場所を知っていたのだろう。

少し待つか、と思う間もなく、女の子は何も持たずに本棚を離れた。早足で、わたくしの方に来る。

わたくしの傍で、女の子の足が止まった。何の気なしに女の子を見ると、下から見上げるようにして、わたくしの顔を見ているではないか。ガッチリと視線が合う。

女の子は無言。なんとも言われぬ表情をしているが、瞳が内心の不愉快さを存分に物語っている。暗い視線が、わたくしの目を捉えて放さない。

げっ。

まさか、邪な欲望が露見したというのであろうか。いや、まだ、なんにもしてない。ばれるはずはない。だが、この子の目は、明らかに強い不快感をたたえている。

顔がにやけていたのか? 目つきがやらしかったか? ハアハア呼吸を荒くしていたろうか? あるいは、存在自体が罪であると? よもや、この子は神の御使い? 心が疚しいだけに、あれこれと想像して、うろたえるわたくし。

この展開はマズイ。小学生女子に「おっさんキモイ」と、はっきり言われてしまったら、「轢いてくれえええ」と泣き喚きながら、店の前の道路に飛び出すしかねえええ(迷惑)。

死兆星がはっきりと頭上に輝きだした気配に怯えるおっさんをよそに、女の子は、ふい、と件の女性を振り返った。しばらく見つめている。それから、もう一度わたくしの顔を見て、目を伏せ、唐突に走り出して、そのまま店を出て行った。

何事? 

変態のくせに小心者のわたくしは、女の子の異様な行動に、すっかり我を失い、行動を糊塗する余裕がなくなって、ふらふらと女性に近づく直接行動に出た。

オ、オ、オ、オンナノヒトーノー、ソバニィィィ。

女性との距離1メートル。背中合わせにして立つ。しかし、いや、だが、これは。ところがどっこい。すっとこどっこい。

おおお、神様、神様、この香りは何でせう?

かのソムリエ田崎信也に喩えさせたら、「奈落の底の底にまかれた反吐のような香り」とか、「呪われた廃屋の床にぶちまけた牛乳を拭いたあと、数日放置した雑巾の香り」などと表現するかもしれぬ。

わたくしだったら、こう譬えてみたい。
「二度目の大学留年のショックで自殺を決意し、名古屋の下宿を着の身着のままで飛び出したものの死に切れず、匿ってくれと厚木のわたくしの下宿に押しかけてきたはいいが、なぜか十日以上も風呂を拒否し、はきっぱなしでコールタールを踏んだように真っ黒になった、鎌田×幸の靴下の香り」
と。ソムリエ試験も一発合格疑うところなしの表現力であろう。

さえぷーに「意味分からんw」と言われる前に、直裁簡明に言うことにする。

夏場の秋葉原の香り。

ぎゃあああ! なぜだあ! なぜ、女性の身体から、このような激臭が!

なりふり構っていられず、振り返って女性を見る。

長い黒髪。が、見るからにパサパサで、艶やかさがまったくない。およそ、手入れというものをしたことがないかのように乱れきっている。

赤いリボン。遠目には赤くみえたのだが、間近で観察すると、数回踏みつけたかのように、まだらに汚れている。

身体つきに女性らしい丸みもない。

げっ。この人、もしかして。

女性の横に移動。漫画を選ぶふりして、横顔を見る。ああ。ああああ。ああああああああああああ!

漫画を持つ左手の節くれだっていること! 右手はというと、股間のある部分に添えられて、なにやら上下に動いてますが! いや、キミ、その手の位置は、その仕草はああああああああああ!

男であった。

わたくしの3倍くらい額に脂汗を浮かべた男は、呼吸をハアハア荒くさせて、少女漫画を読み耽っていた。血走った眼の横顔は、「宅八郎」に瓜二つ。股間で蠢く右手。地獄の臭気。

「あかん、あかんで、これはあかんでえええええ! 逃げて! はよ逃げてーーー!」

と、松ちゃんの警告が頭の中に鳴り響く。

わたくしはショックのあまり、お嬢様走りでその場を逃れた。いい歳したおっさんのわたくしですら逃げたくなるのだから、そりゃ、小学生の女子は耐えられんわな!

店の外に出そうになったところで、文庫本持ってることに気がつき、慌ててレジに向かう。いかん、もう少しで万引き犯になるところだった。涙目のまま、レジのおねえさんに本を渡し、お金払って退散した次第である。

秋葉系などと、さも爽やかそうなレッテルを貼られ、無害化したように思われているオタク族であるが、とんでもねえ。まだ居るまだ居る。ごっついのが、まだおるがな!
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