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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2007年01月27日 (土) | 編集 |
AABCDは、ブンゴウと名乗る男と出会って以来、眠りにつくと決まって悪夢に苦しめられるようになった。天井一面に大写しになったブンゴウの顔が、「言ってみろ! 言ってみろ! 俺の何が悪いのか言ってみろ!」と執拗に責めたてるのである。

おかげで、ろくに睡眠がとれなくなり、不眠の疲れから体調を崩してしまった。酒で気分を晴らそうにも、行きつけのマジンシアの酒場は、またブンゴウに出会ってしまったらと思うと恐ろしく、当分、足を運ぶつもりはなかった。

狩りに出かけようにも身体が重くて気分が乗らず、部屋ですることもなく怠惰に過ごしていると、気分は落ち込んでいく一方である。

(そういえば、鉄の在庫がないな)

放心状態でベッド横になっていたAABCDは、ふと思い出した。経営する店の主力商品である、乗りドラ鎧を作るための鉄が、そろそろ無くなろうとしていた。仕入れにいかねばならない。

(市場に出かけるか)

きっと、よい気分転換になるであろう。AABCDは、厩舎に預けっぱなしになっていた荷馬を引き受け、市が開かれている首都のブリテインへ飛んだ。

銀行前の大通りは大勢の露天商と、買い得の品物を探し求める客でごったがえし、人いきれで息苦しいほどであった。荷馬が暴れないように轡を引きながら露店を覗く。

相場より少し安い値段をつけた鉄を見つけて、あるだけ売ってもらった。ドゥーム対岸に渡るために必要な金髑髏も買った。ドラゴンの皮鱗を安売りしている商人を見つけ、荷馬のバッグが一杯になるまで買い込んだ。

思い切り金を使うと気分が晴れるものである。売れ筋商品の傾向を見て相場を頭に叩きこみ、忙しく頭脳を働かせているうちに、すっかりと気持ちが穏やかに回復していた。

部屋に閉じこもって腐していた自分が馬鹿馬鹿しい。久しぶりに外の風に当たって歩き回るのが楽しく、あちこちうろつくうちに町外れにまで来てしまった。ここから先は、街の治安兵もやってこない無法地帯──ガード圏外である。

(必要なものは買い揃えた。酒場で一杯ひっかけてから帰ろうか)

そう思ったとき、民家の影に隠れるような位置に地べたに筵を敷いて、ぽつんと店を開いている男の姿が目に入った。

(はて、こんな場所で何を売っているのだろう)

周囲に男以外の露天商はおらず、買い物客もここまでは歩いてこないようで、店に客の姿はなかった。物売りの男は暇つぶしのつもりか、下を向いて膝に置いた本を熱心に読み耽っている様子である。

もっと街の中心近くに陣取った方が客がつくだろうに、何を好き好んで、こんな場所を選んだのか。興味をそそられて近づいた。物売りの男は、AABCDが商品を覗き込むと、チラ、と上目遣いに見ただけで何も言わずに、また本に視線を戻した。陰気な男であった。

(これでは商売になるまい)

と、AABCDは思った。こんな場所では、せめて愛想の一つも言わねば売れるものも売れないだろうに。それを男に言っても余計なお世話というものであるから、AABCDは心中でそっと溜め息をつくにとどめて、筵の上に並べられた商品を一つ一つ眺めていった。

お世辞にも、よい性能とは言えない鎧や剣がいくつか。武具の横には、チーズの欠片や鉄塊、鞭といった雑多な品が置かれており、乱雑で脈絡のない感じを受けた。客の好みを別に考えても、魅力的な品揃えとは言えそうにない。

(要らないものを処分しているのかな)

そう思い、立ち去ろうとしたAABCDであったが、物売りの男の膝に隠すよう積んである書物に目が留まった。例の、「真実の本」である。

「あ……」

AABCDが思わず声をあげると、物売りの男ははじめて顔をあげて、ちょっと笑顔を見せた。面長で、出っ歯の気味があるのか笑うと前歯がむきだしになったが、それが自然な愛嬌となっているようで、さきほどの陰気な印象は消えていた。

「何か?」

「いえ、その本……」

「ああ、これ。5万gpでどう」

もごもごと口中にこもったような、聞き取りづらい口調で喋る物売りの男は、真実の本を一冊手に取るとAABCDに押しつけようとした。慌てて手を振って、買うつもりがあるわけではないことを示すと、男はがっかりしたような表情を見せた。

「売れるんですね。それ」

「そのようだね。依頼をこなすためには、かなりの冊数が必要になるらしいから」

「依頼?」

「あなたは受けてないの?」

「はあ」

「だめだなあ、そんなんじゃ。依頼を果たせば報酬貰えるんだから、しっかり調べないと損だよ」

「はあ……」

(つづく)
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