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捕獲されました。年貢の納め時というやつ。
2007年01月25日 (木) | 編集 |
AABCDは、マジンシアの街にある酒場「Great Horns Tavern」で酔い潰れ、もう一時間もクダをまいていた。

「じょおおおん。わしの、わしのじょおおおん。バカ野郎があああ。どうしてわしの心を分かってくれねえんだ。わしゃあ、てめえを立派な白豚にしてやりてえだけなんだ。じょおおおん。おおおおう、おおおおう」

真実の本を集めるなどという、くだらぬ流行に踊らされた自分が、身の置き所もないほどに恥ずかしく、酒に逃げる以外に気持ちの整理のつけようもなかったのである。

「酒だ、酒をくれぇ」

「もうよしなよ」

馴染みのバーテンOwenが忠告してくれたが、「いいから飲ませろってんだ」と、わめきたてるAABCDに処置なしと思ったのであろう。Owenは軽く肩をすくめて新たな杯を出した。

「お前さん」

「へえ?」

AABCDはぐしゃぐしゃの涙面をあげて、声の主を見た。AABCDの隣の席に座り、愚痴を黙って聞いていた男である。

なんだろう。AABCDは次の言葉を待ったが、男は口を開かない。手の中のグラスを見つめたまま、考え込んでいるようであった。やがて、かなりの間をおいてから、男は喋り始めた。

「お前さんは、了見違いをしなすっている。世の中の真実なんてものはな、ただ一つよ。人間は孤独なのさ。すべては幻よ。愛も友情も自分に都合のいい幻よ。他人に期待しちゃいけねえ。期待するから裏切られて絶望する。そこに気がつかねえのは、真実が見えてないってことさ」

「はあ……。そんなもんですかね」

「ああ、そうさ。俺なんか、ハナから他人に期待しちゃいねえ。とくに女には気をつけろ。やつらあ、その日を楽しく過ごすことだけを考えて生きている、下等なケダモノさ。箸が転がるだけでおかしいなんてのは、世の中の真理に興味がないからよ。馬鹿で何も悩まないから日々が楽しく過ごせるってわけよ。何が女だ。くだらねえ。俺あ、ヤツラが年とって更年期になって苦しむのが嬉しくてしょうがないのさ。若い頃に楽しんだツケが年取ってきてから現れるのさ。ざまあみやがれってんだ。馬鹿が!」

「……」

「いいか、人間は芸術を志向しなきゃならん。神を信じなければならん。あと、民主主義は多数決で物事が決められて、俺みたいな少数派は爪弾きにされるから嫌いだ。そうだな、共産主義がいいな」

「てえことは、国民すべてが芸術家で神を信じている共産主義国家が、理想だとおっしゃるんで?」

「ああ、その通りだ。それが真実よ。それを分かっているのが、俺という男さ」

「あんた……。どなたさんで?」

「俺か。俺はブンゴウ。女とチューどころか、手ぇ握って歩いたこともないまま35年生きてきた。人は俺を恥ずかしいヤツというが、俺は誇りを持ってるんだ。女に使う時間がどれだけ無駄か、お前に分かるか」

「はあ……」

AABCDは呆けたように返事するしかなかった。この男は何を言いたいのだろう。下手に口をはさまず、ただ聞いているしかない。

「だが、女はいい!」

男の雄たけびに、AABCDは仰天して目を白黒させた。たった今、女を見下したことを言ったばかりではないか。こいつ狂人か、と思って背筋が寒くなったが、そうであるとすれば迂闊に逃げ出そうとするのも剣呑である。AABCDは身を硬くして、男の言葉を待った。

「とくにアダルトビデオな。ありゃあいい。自慢じゃないが、俺あアダルトビデオが大好きでな。もうほとんど見尽くしたのさ。俺みたいな玄人に言わせると、本場行為のあるビデオはつまんねえな。実はな、最近気に入ってるビデオがあってな。中国人の女が裸で新体操するのよ。なんでも元体操選手に金つかませて撮影したらしいんだが。それが延々と続くのさ。それだけ。男は一切でないし、いやらしい行為もない。だが、妙に欲情をそそるんだなあ。ひゃひゃひゃひゃ。どうよ、お前さんはそういうの」

「……」

AABCDが答えないでいると、男は我に返ったのか、喋りすぎたという後悔を露わにした渋い表情で、

「俺は、アダルトビデオマニアじゃないけどね」

と、呟いて黙った。AABCDは、いたたまれない気持ちになった。すっかり酔いも醒めてしまっている。もう帰ろう。バーテンに代金を支払おうとした。

強い力で腕を掴まれた。ぎょっとして振り向くと、目を血走らせた男がぐんと顔を近づけて、酒臭い息を吹きかけながら迫ってくるではないか。

「お前、俺を恥ずかしいと思ったな!」

「いや……、そんなことは……」

「いや分かっている。お前は、そう思ってるに違いない。童貞のどこがいけないんだ!」

「ヒィィィィ、何も悪くありません。許してください、ヒィィ、ヒィィ」

「いや納得できない。俺は傷ついたぞ! どこがいけないのか言ってみろ、言ってみろ!」

「ぎゃああああ、カンベンしてください。悪くないです、悪くないですぅぅぅ」

AABCDは、これほど恐ろしい思いをするのは初めてであった。こいつは何者なんだ。黒閣下パラゴンとソロで相対する方が、まだマシだった。黒閣下以上。魔王だ、魔王に違いない。俺は魔界の王に出会ってしまった。

底知れぬ恐怖に打たれて、涙が噴き出してきた。混乱した頭で、あらゆる詫びの言葉を並べ立てながら、土下座して許しを乞うしかなかった。

男は、AABCDのあまりの取り乱しように、こいつはつまらぬヤツだと思ったのであろう。やや興奮の冷めた様子で、

「ああ、また俺は理解されなかった。人間はやはり孤独だな」

と言った。

「はいそのとおりです勉強します勉強しますすいませんでしたすいませんでした」

幾度も謝罪し、男の気分の変わらぬうちにギルドハウスに飛んだ。部屋の隅に蹲って泣いていると、

「何してるの? 暇? どっかいこう! へへ」

と、ティアラさん。

わああああいティアラさんだー。遊びに行くぅぅぅ。涙を振り払って立ち上がるAABCD。ギルドメンバーを呼びつけて、ヒスロス黒閣下の広場に飛ぶ。

次々と現れる黒閣下を倒すこと30分。7冊も真実の本が集まり、ティアラさん、よん様、ぼぐさん、ひまじんさん、さとみんさんと一冊ずつ分け合った。

「たくさん取れたね! へへ」

というティアラさんの笑顔に癒されて、今日も至福のひととき。お休みなさい。
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